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謙也が、『ピエロ』だった場合。

それを、最悪でも考えておくことが必要だった。なまえも蓮もが、謙也を『ピエロ』ではないと盲目的に信じているなかで、俺だけでも疑わなければならないのは必然的たることだった。俺も謙也が『ピエロ』ではないと信じたい。信じている。でも、もし100%信じておいて、もし、裏切られたらどうする?俺たちが傷つくだけだ。

だから、俺は1%でも、信じないという心持ちを作る。



だから、俺が100%信じられるのは、自分と、蓮となまえぐらいだ。
跡部と謙也は、数字ではっきり示すなら98%ぐらい。柳生でも、90%はいかない。


俺は、傷つきたくないだけ、な臆病な「詐欺師」。だから、謙也に『ピエロ』でなくて欲しいとも思う。



信じてる相手だから。『ピエロ』なんて、名前使って欲しくない。
おどけた笑顔で、面白おかしくなにかをすることで人惹き付けるけど、『ピエロ』の素顔は誰も知らない。そんな、ものだから。


「詐欺師」になりかけの者が『ピエロ』だから。



「まーた、変な顔してる」
「…なまえ、」


いきなり覗き込まれて、俺は思わず後ろに身を引いた。時間は夜の8時少し前。今から謙也と落ち合う約束で。俺はたまらず、なまえと蓮とで待ち合わせした階段付近に座り込んでいた。なまえはふわりと笑ってから俺の隣に同じように座り込む。


「蓮はあと10分ぐらい遅れてくるってさ」
「蓮が…?なして?」
「ヘタレ野郎を元に戻せってさ」
「ヘタレか…」
「…ってのもあるけど、なんか幸村と真田に掴まってた。メールで遅れるって連絡来たの」


そして、なまえはそう言って笑って、俺の右肩に頭を置いた。そのままぎゅっとくっつく様に身体を密着させて、俺の右手の上に自分の両の手の平を乗せた。


「マサがさ、何にもんもんとしてるかは分かる」
「…おん」
「…でもさ、100%信じることも、大切じゃない?大丈夫よ」


そう言って、なまえは綺麗に微笑む。


「私達は、仲間で。謙也も景吾君も仲間じゃない」


それに、俺は、小さく頷いた。


『ピエロ』が、謙也だったら。
その時の為に、覚悟を決めて。

さあ、蓮が来たら、謙也に会いに行こう。

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