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不二周助の話はこうだった。


弟・裕太のパソコンがおかしい。
もちろん、それは不二が今住んでいる家にあるパソコンもだが、裕太君自身が所有する、寮にも持って行っているパソコンも、両方ともらしい。そして、その「おかしい」という意味は、よく分からないのだが「異様なセキュリティ」らしいのだ。まずはパスワードの3重ロック。それでさえも1つが8桁というパスワード。その時点で何かがおかしい。
そして、裕太君が部屋を離れた隙に少し見たらしいが、メールフォルダにも2重ロック。そしてトップページには英語を始めとする外国語が並ぶフォルダの山。何か得体の知れない、「何か」を弟はしでかしているのではないか。


「…とっても怪しいよね」
「…まず、ロックをかけすぎだと思う。いくら用心深いとは言え、パソコンを立ち上げたまま、自宅だとは言え、パソコンから離れるという行動からでは納得がしがたいな」
「だろう?…不二にはどうやって伝えたんだい?」


研修旅行2日前。
俺と真田は部活帰りにコンビニで買った肉まんを食べながら帰り道を歩いていた。…俺も、真田と同じ考えだった。

不二の弟は、何かをしている。
それは確かだ。だが、「何」をかは分からない。「ハッキング」であれば止めなければならない。でも、


「…一応考えてみるが、危険性は少ないと思うと答えた」
「そうだね…聞いた話だけじゃあ、プログラミングをしていると考えた方が妥当だよ」
「そうだろう?だが…」


真田はそう言って言いよどんだ。
そう。「プログラミング」をするだけにしては、ロックが厳重すぎる。パスワードを8桁を3個も?そしてメールフォルダにも?
ロックが厳重なのは、直接パソコンを触れる周囲の人間を警戒しているということになる。ハッキングをしてくる奴らには、そんな表向けのロックなど、家を囲う門にすらならないのだ。ハッカーは、それこそどこでもドアを使い、玄関を通らず、家の中に出現する者だからだ。


「…ただのプログラミングではなさそう。そう思わないかい?」
「ああ、ただの、プログラミングでは、ない可能性が高いな」



「幸村君?」


目の前で手を翳され、それがゆっくりと振られていることに今気付いた。はっとなって手を掴めば、掴まれた手の持ち主は不満そうな顔していた。


「あ、ごめん…」
「別にいいけど、丸井君と愛に置いてかれちゃう」


苦笑してそう言った彼女は歩き出す。随分先には食べ歩きを楽しむ丸井と有明。…あの二人、胃袋が似た者同士だな。そう思いつつ、彼女の隣に並ぶ様に俺も歩く。


「…考え事?」
「ああ…うん。まあね」


研修旅行2日目。
今日の朝、俺達はバスで京都から大阪へと移動し、今日明日は大阪で観光する。

隣を歩くのはみょうじなまえ。
…この子は、変わっている子だと思う。昨日、面と向かって「余所行きの笑顔はやめたら」と不快そうに言われた。そのことについては後から、「なんか分かんないけど、違和感あったから、ごめんね」と謝られてたが、俺はなんとも思っていない。不快というか、むしろ、興味が深まった。みょうじに対して、の。
少し、大人っぽい子。それがこの子の見た目の印象だが、第一印象は何かを持っている子。…何かを、周囲の高校2年生の女子が普通持っていないだろう「何か」をこの子は持っている気がする。それは、昨日笑顔ことを言われた際に確認済み。
そして、昨日のホテルでの夕飯頃から少し態度が変わった。どちらかと言えば、つんとした態度だったみょうじが少し柔らかい雰囲気を持っていた。親しい者にしか見せない様な。現に有明への態度がそんな感じかな。…丸井に対しては、みょうじが俺に指摘した「余所行き」の笑顔をしてるんだろうなと思う。俺に対しては、少し柔らかくなったと同時に思ったことをズケズケと言う様になったけれど。
…まあ、たった一日で変わったなどと言ってもまだ分からないけれど。


とりあえず、面白くなりそうだ、と笑みを浮かべた。


「幸村君、笑ってるね。…そっちのがいいよ」
「そう?ありがとう」
「で?丸井君と愛がそんなに微笑ましい?」
「うん。まるで子豚だね」
「丸井君は成人の豚よ。愛はハムスター」


…ズケズケ言うってのは、こういう所、かな。昨日の夕飯ぐらいから、こうやってすっぱり物を言うのを俺は耳にしているけど、丸井はしていないらしい。

…なんでだろうね?


120523
なんででしょうね?