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私達はとりあえず、あの後謙也に連絡を取り、研修旅行中に会う約束を取り付けた。謙也には『ピエロ』のことは話していない。…謙也が『ピエロ』だという、可能性もあるからだ。
私達が、『ピエロ』をここまで警戒する理由はいくつかある。第一に『ピエロ』は、まだ実力が分からない人物だということ。景吾君の見立てが間違ったことはないけれど、警戒しておくに越したことはない。次に、『ピエロ』の立ち位置が分からないから。敵など味方などくだらない線引きはしたくない。私達の邪魔をしないなら、学生以外を餌に育てばいい。(大人は自業自得だけど、学生はまだ猶予を与えるべきだと師匠に教わったし)


率直に言ってしまえば、私は『ピエロ』なんて大嫌い。
謙也を私達の仲間だと思って巻き込んだのか。それとも、知らなかったのか。…知らなくて巻き込んだんだったらもっと許せない。一般人の学生を、巻き込むなんて。
だから、私は盲目的に謙也が『ピエロ』でないと信じている。



「めっちゃうま!!」
「ちょ、丸井君これ食べてみて!」
「あはは、二人とも恥ずかしいからやめてね」


とりあえずは、平和。
あれから、入れていた依頼を3件程解決させれば、あっと言う間に研旅の日にちとなっていた。そして今日はその1日目。
目の前では生八橋の試食を嬉しそうに頬張る、愛と丸井。それを黒っぽい笑顔で見ている神の子。…はあ、なんだか『ピエロ』のことであんなに堅苦しかったのは嘘みたい。…まあ、明日の夜になれば分かることだし、マサも蓮も旅行は楽しむって言ってたし。私も楽しもう!


「みょうじさんはなにしてるの?」
「幸村君…。あれ、あの二人は?」
「ああ、なんかアイス買いに行ったよ」


…よく食べる奴らだなあ。そう思って私はお土産用の生八橋を見ていれば、隣で神の子がにこにこ笑ってる。なんかやだなあ…。そう思っていれば、神の子は私の持っている生八橋の箱を覗き込む。


「お土産?」
「…兄さんが欲しいって言ってたから」
「仲いいんだね」


そう笑っている神の子は何を考えているか全く分からない。なんなの、こいつ。あからさまに余所行きですって笑顔してるし。いや、私はこいつが信頼するテニス部じゃないから余所行きって言うのは当たり前なんだけど。でも、なんだか…。


「ねえ。幸村君」
「ん?なあに?」
「…その、いかにも余所行きですって笑顔、やめた方がいいよ」


そう言うと神の子は笑みをやめて、驚いた様に目を張った。ってええ!私何言ってんの!神の子相手に何言ってんの!いやいや、ちょっと落ち着け?マサや蓮の前ならまだしも、なんで外で素出てんの。そっと神の子を見れば、面白そうにあははっと笑ってみせた。


「あははははっ」
「え、ちょ…幸村君?」
「君、本当面白いね。そんなこと言ったの、みょうじさんが初めてだよ」


そう言ってみせた神の子は楽しそうに笑って、


「気に入ったよ、みょうじさん。仲良くしてね」


そう手を差し出してきた。え、なんなの、いやだよ仲良くするの。すると、神の子は私の手を自分で握って、そのまま言った。


「みょうじさんも、何か隠してるよね。素を出してない感じがするけど、溜め込んでる感じがないみたいだから、誰か素を見せれる人が居るのかな?例えば、幼馴染とか」


幼馴染、という単語に思わず反応しそうになった。でも、神の子にはそれだけで分かってしまったみたいで、


「みょうじさんの、幼馴染かあ。ふふっ。見てみたいな、誰だろう」
「ゆ、幸村君、手が痛いです」
「ああ、ごめんね。…そのうちに、俺にも見せてね」


そう綺麗に笑ってみせた。蓮…マサ…。どうしよう。

どうしてか、神の子に気に入られたらしいよ。…面倒くさい。

120513