TH | ナノ
eighth load
「……」
誰もが黙ったままだった。
蓮がやっと帰ってきて、夕飯を食べ終わり、私達は『ピエロ』のアクセス先を辿ったのだ。対策も何もしてなくて、爪が甘いとマサと笑っていた通り、簡単にどのパソコンからアクセスしてきたか分かった。…そして、私達は黙ったままなのだ。まさか、信じられない。
「蓮、可能性は?パーセントとして」
マサがそう言ったのが私達の沈黙の終わりだった。私は隣のマサを見上げ、そして向かい側に座る蓮を見た。珍しく目をしっかりと開けた彼は、小さく溜め息をしてから、パーセントを告げた。
「…今のところ、あいつが『ピエロ』の可能性は、50%だ。あくまでも、だが」
「…でも、それはパソコンがそうだっただけで、回線を利用したってのもあるでしょう?」
「それか、直接の友人で、じゃな。…それにしても、回線を利用したのなら、結構なやり手じゃな。『ピエロ』のやつ」
「…もし、『ピエロ』だとして、こんな証拠、残すかな?」
「…俺は、謙也が『ピエロ』だなんて思いたくない。回線を利用した、もしくは、謙也のパソコンを直接使っただけだと信じたい」
蓮はそう言った。そんなの、私もマサも、一緒よ。
そう、今回送られてきた『ピエロ』のメッセージ。そのアクセス元を辿ったら、謙也のパソコンだったのだ。先に述べた様に、謙也がもし『ピエロ』だったとしても、こんな風にメッセージを送ってきながら対策をしないなんてことはないし、だとしたら『ピエロ』は謙也の友人もしくは謙也のパソコンを使える人。それか、回戦を利用しただけのどれか。でも、私達はこうも考えた。
謙也でないことを前提に、ならば、なぜ謙也のパソコンの回戦を利用したのか。この
場合考えられるパターンは以下の。ただ単に『ピエロ』が謙也の友人で謙也がお人好しなのを見越していただけ。その場合謙也には悪いがその友人は、『ピエロ』は馬鹿だ。私達THが本当はタチの悪いクラッカーだったらどうする。謙也のパソコンは勿論、そこから行ける所までのパソコンは全てクラックだ。そして、もう一つは、謙也が私達THと関係があることを見抜いていた、場合。
「さて、真田。詳しく教えてよ。手塚のことと不二のこと」
「ああ。…手塚には、3件程前から手伝ってもらっていた。理由はまあ…俺が手塚のパソコンを直したからだ」
「手塚のパソコン?」
「ああ。TTにクラックされていたんだ」
紅茶片手に真田とそう話していた。すると、携帯がまた着信を知らせた。ディスプレイには「 」の文字。真田はふっと笑うと、
「出ればよかろう。…そいつが『ピエロ』だろう?」
「…よく分かったね」
「『ピエロ』は、目立つ。冷静な観点から見れば、見抜くのは一発だ」
そう言った真田に、確かに、と返した。
『ピエロ』は、ハッキングなどの力ならそれほどではないが、相手を騙し、囮となる様な噂を自分で流し、そして人を翻弄する。だから彼の本当の実力を見抜くことが出来るのはなかなか居ない。…まあ、インサイトを持つ跡部が、それをテニス以外に使えるというならば、見抜くことは簡単だろうけど。
そして、俺は電話の向こうに居る彼に笑いかけた。
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