TH | ナノ

fifth load


「うん、分かった。…りょーかいですよ、master?」


蓮との電話を切って、私はパソコンにまた向かう。
画面にはアルファベットの文字が並ぶ。これは、先日滝君の家で解除したTTのプログラムのデータ。背景は黒。文字は白。何行にも渡るプログラムの頭には、以前解除したプログラムに入っていた文字の羅列が並ぶ。


「…この、頭の文、どこかで…」


そう。見たことがある気がするのだ。どこで、やなにで、は分からない。ただ、このプログラムの頭、絶対見たことある。…TTではない、違う誰かのプログラムで。
…兄さんの?いや、違う。じゃあ、誰?
景吾君や謙也はあまりプログラムを作らないし、蓮とマサは私と特徴が酷似しているから分かる。…じゃあ、


「あの人、かな…」


あの人。名前を     。私達THの師匠だ。
…でも、師匠のプログラミングは、完璧で、私は解除したことがないから分からないけど、あのmasterである蓮が本気でかかって3時間費やす程だ。そんなレベルのものを20分で解ける様なプログラムに織り込めるのか?否、無理ね。
しかも、このプログラムはTTのもの。師匠のプログラムと似ている訳がない。


「…それにしも、やだなー研旅ー」


伸びをしながら壁につってあるカレンダーを見る。
研修旅行、略して研旅は、明後日まで迫っている。この、研修旅行、修学旅行とは別で、クラスの仲を深める為のもので、実は去年も行っている。去年は北海道で、愛といっぱい美味しいものを食べた。…本場の雲丹は美味しかった。ほっぺ落ちるかと思った。そして今年は京都と大阪である。2泊3日なので、1日目に京都、2日目と3日目に大阪を回るらしい。そして、今回はクラスで回ると言うよりは先生たちから決められたグループで3日間を過ごす。最悪だ。神の子と一緒だなんて本当無理。最悪。


「…それにしても丸井は良い奴だった…豚とか言って本当悪いことしたなあ…」


とは、言っても、丸井が以前の様に私の食べ物を取ろうとかしたら、加えてそれが誰かからもらったのだとしたら。その時は容赦なく豚と呼ばせてもらおう。


「っと、メール?誰から?」


そんな時。一通のメールがパソコンに届いた。そばに置いてあるTH用の携帯に届いてない様だから、TH宛の依頼ではないだろう。(TH宛の依頼ならば、一度パソコンに届いたメールを即座にTH用携帯に転送されることになっている)ならば、誰だろうか?このパソコンのアドレスを知っているのは、兄さんと景吾君、謙也、滝君、そして、師匠だけ。ただ、兄さんと景吾君、謙也は私の携帯のアドレスを知っているからわざわざこっちにメールなんて送らないだろうし、それは師匠も同じく。…なら、滝君だろうか?
実は、滝君からもらった物は、アクセサリーだった。アクセサリーと言っても、THのロゴもモチーフにしたプレートが5枚と、女用のチェーンが5つと男用のチェーンが5つ。予備を踏まえて、5人分のネックレスが入っていたのだ。THの名を立海で知っている人が何人居るか分からないし、最近『ピエロ』だとか言うコードネームの人がTHを英雄気取りに語っているらしいし。あんまり安易にはつけれないけれど、感謝の意を込めて、滝君にはTHが私含め3人で男子が2人に女子が1人だと言うことと私のパソコンのアドレスも教えておいた。


「さて、誰かな…」


そして、メールフォルダを開けば、メールは2通。
1通は師匠のアドレスだけれど、もう一通は知らないアドレスだ。正直、あまり連絡してこない師匠のメールはすごく気になる。もう、ものすごく気になる。だけれど!まずは滝君だと思われるこのメールを見ようか。…件名はなし、か。
そして、メールを開いて、私はだんだんと自分が笑顔を浮かべていくのが分かった。


「噂をすれば、影…ってね」


件名はなし。
本文の最初にはこう書かれていた。

「初めまして。お初にお目にかかります。
試行錯誤の上、この宛先はTH様との認識がございます。
もし違っていましたら、削除をお願いします。

改めて、初めまして。私、『ピエロ』と名乗らせて頂いているものでございます」


120330
ピエロがTHに接触したよーの回。