TH | ナノ

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最悪だ。


「それじゃあ、よろしくね」
「うん、まあよろしくー」
「……」
「どうかしたのかよぃ?みょうじは」
「あ、ううん。別に大丈夫…」


愛に足をがんっと踏まれて、すぐにそう笑顔を作って言った。目の前には神の子と赤い髪の馬鹿。くっつけた机は4つ。上には研修旅行と書かれたしおりが4つある。

そう。担任がテニス部に興味がない私と愛を、このクラスのテニス部レギュラーと一緒のグループにしたのだ。


「ちゃんとしなよね、なまえ」
「なんでっ!」
「…只でさえ、私達と仲良くないテニス部のファンクラブが睨んでるのに、あんたはそんなに敵増やしたいの?媚売らないのは当たり前だけど変な態度取ったらどうなるかあんたなら分かるでしょ?」


そう言った愛に私はこくんと頷いて見せた。
ファンクラブの子は、私が去年丸井に対して対立的な態度を取ったことと、私達普段から騒ぎたてずに他の男子達と同じ対応をしていることを理解していてくれている。だから、いじめみたいのは起きないし、私と愛の友人にもファンクラブの子は居る。その中の一人はマサのファンクラブ会長だったりする。あと真田君のファンクラブ会長もいる。

まあ、そんな感じの関係性から私達は今もこうして無事に高校生活を送っている。


「それにしても丸井同じクラスだったんだね」
「そうなんだよぃ。始業式ん時は弟が熱出しちまって」
「……」


だけど。この二人の組み合わせはない。
言わずもがな、私は幸村精市が嫌いだし、丸井に至ってはプリンの恨みがある。


「…これ、先生が決めたんだよね」
「そうね」
「…今からでも書きかえれるかな」
「そんなことみょうじさん出来るの?」
「まあ、それぐらいは…って!ゆ、幸村君!?」


愛にだけ話しかけていたつもりが、にこにこと笑う神の子にも、そしてすげえな、と無邪気に笑う赤い奴。…今ちょっと丸井に対して印象が変わった。ちょっとだけ。


「なまえ、声大きい。この二人には確実聞き取れる声量だったよ」
「ま、じか…」


苦笑して言う愛に私はそう返した。
…愛はTHのことは教えてないけど、データを書きかえれるぐらいの技量を持つことは長い付き合いだし知っている。だから、ぼそっと呟いたつもりだったのに…。…私、そんなに神の子と一緒なの嫌なんだ…。


「みょうじさん、すごいんだね。そんなこと出来ちゃうの?」


にこにこ。
そんな効果音がつきそうな真っ白そうな真っ黒の笑顔を浮かべて神の子は言った。さて、どうしようね。この人、この上なく面倒くさいし、ずっと前のメモリースティックの件もあるし。…まあ、スティックのは覚えてないだろうけど、でも、用心に越したことはないよね。神の子は勘が鋭いって景吾君も言ってたし。


「…まあね。兄さんがパソコン関係の仕事就いてるからか知らないけど、それぐらいだったらね」
「そうなんだ…」
「すっごいな!お前。俺、丸井ブン太。去年は悪かったな、プリン。今度行き着けのケーキ屋教えるから、それで許してくんね?」


私がそう言えば、神の子はそのままの笑顔で何か考えるかの様に呟いてみせた。すると、丸井がそう笑顔で告げる。…覚えてたのか、こいつ。いいよ、と私は言ってみせて、愛も私も行くと笑ってみせた。元々この二人は中学の頃同じ委員会だったってことで顔見知りなのだ。…そして、何より、丸井の行き着けってことは、絶対に美味しい。マサと蓮が言ってたんだし、間違いない。


「まあ、これからよろしくね」
「こちらこそ」
「みょうじなまえだよ。よろしく」
「おう!」


さて。研修旅行までは2週間。それまでに溜まってるTHの仕事を片付けないと。それと、今回の滝君の件の暗号。もう少し意味がありそうで。私が前半、後半をマサが解いてる真っ最中。これから、どうなっていくのか。


120306
研修旅行編です