TH | ナノ

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「なあ、今回の」
「…早速THに掃除されたね」


この会話は今回は電話を介してではなく、顔を見合してでの会話となる。部屋に人影は3人分。名前は分からない。だがこの3人がTTであることは確かなのである。ここでは彼らのことを、彼らが最初に登場していた行動から取って、左利きの彼、コーヒーの彼、電話口の彼と区別することにする。


「ざまあ」
「…うるさいなあ、  だって前やられてたじゃん」


そう言って、左利きの彼を軽く睨みつけたコーヒーの彼は、座っていた椅子をくるりと回してデスクトップのパソコンに向き直った。かたかたとキーボードをたたく。このパソコンは左利きの彼のものだけれど、彼も、電話口の彼も何も言わないのを見るといつものことの様である。


「で、これ?新しいの」
「そう」
「…でも、今回、仕掛けたのって、氷帝の滝さんだったんだろ?」
「…そうだよ、ねえ  」


電話口の彼が心配そうにそう言えば、コーヒーの彼は小さく頷いて左利きの彼を見る。彼もこくりと頷いてみせた。


「…確かに、迷惑をかけた」
「でも、あいつを、炙りだすまでは、やめられない。そうでしょ?  」
「…そうだけど」


左利きの彼はベッドに腰掛け、そのままベッドに背を預ける様に倒れこんだ。そう彼が言えば、コーヒーの彼も苦虫を噛み潰した様な表情で言ってみせた。電話口の彼を頷いてみせる。


「…全部、あいつのせいだ」


3人が示す、あいつとは、一体誰なのか。




「…って感じかな」


少し早い夕飯を食べ終えてから、私は自分のパソコンに滝君のパソコンを直してきた時にとってきたデータを蓮とマサに見せた。興味深そうに見る蓮と薄く笑みを浮かべるマサ。


「いやみ、じゃな」
「そうだな」
「そうだね」


『ジキル博士とハイド氏』。
それをTTが使ってきたのには、意味が確かにあった。
元々、この本は、ジキル博士という真面目で温厚で心優しい紳士な博士が、自分の作った薬を飲み、自分でも知らなかった自分の心の闇を外に出してしまい、残忍で残酷、憎むべきハイド氏というもう一人の人格と共存し、そして終いにはジキル博士の意思は消えてしまい、ハイド氏になってしまうという話だ。


この場合、TTがTHを乗っ取るという意味をさす。


「…そして、それを俺達THも知らずに望んでいるということか」
「…本通りだとそうじゃな。ジキル博士は結局、自分の闇であるハイドを解放することを密かに望んでおったんじゃから」
「…そうすると、第三者に被害が及ぶし、私達に置き換えれば、ジキル博士の親友はスナイパーかピエロか。それか」
「TTが跡部や謙也の存在を知っていれば、どちらかだな」


本では、第三者に被害が及ぶ。
出会った子供は殺され、ジキル博士の使用人は心が落ち着かず、ハイド氏とトラブルを起こせばその人も殺される。


「…面白いじゃないの、ねえ」
「そうだな。…なまえ」
「なあに」
「そのデータ、遼介さんには渡すなよ。絶対だ」
「ふふっ。そんなヘマすると思う?私が」
「…なまえの兄さんは怖い。用心じゃき」


マサもそう言って、それに私は頷いた。
確かに、兄さんは怖い。性格が、とかではなく、勘が鋭く、蓮やマサのお姉さんたちの上に立っているんだと実感させられるのだ。つまり、私が言うのもなんだが、頭が切れて勘が鋭い。家に滅多に帰ってこないし、THとしてではなく、この3人つまり幼馴染で部屋を借りているという設定は知っているからここの部屋に泊まって家に帰らなくて怪しまれはしないだろう。ちなみに家賃は3人で株で稼いだお金と、海外に出てる私の両親や同じ様な仕事をしている蓮やマサ(マサの場合は建築士だけど)の両親がそれぞれにくれる、他の高校生よりは高い小遣いから出していることになっている。本当は家賃は景吾君が出してくれてるから、食費に消えてるだけだけれど。


「…まあ、学校とかも楽しもうよ。今度テニス部見に行く」
「ああ。たまには来い。歓迎しよう」
「…そういえばもうすぐ、研修旅行じゃなか?」


THとしての会話を終わらせ、ゆっくりコーヒーを飲み始めた。すると、マサの言葉に一気に嫌な予感がした。…研修旅行だって?


120228
TTのターンは前回同様地の文が第三者視線です。普通に高校生活もエンジョイします