TH | ナノ

ninth code


「…さて、真田。今日は部活が休みだよ?『掃除』と行こうじゃないか」
「断る」


俺はいつも通り帰り道を一緒の隣に居る真田にそう笑いかけて言った。いつもなら薄く笑みを浮かべて、ああ、と言ってみせるのに。今日はそう言って楽しそうな笑みを浮かべた。


「…嬉しいこと、何かあったのかい?」
「ああ。青学の1年、越前が帰ってきたと手塚から聞いてな。まあ、それは今日『掃除』を断ったのとは関係はないが」
「ボウヤが帰ってきたのは赤也から聞いてるよ。楽しくなりそうだね」


俺はそう言ってから、もっとも、と肩をすくめさせてみた。


「もっとも、また夏が終わればアメリカに帰ってしまうんだろうし、来年にならないと俺達には全く関係がない」
「…それだがな、幸村」


真田は、そう言って肩にかけたラケットバックのもち手をぐっと握り締めた。顔つきは、試合前の様だ。


「今年から日本に居る方が多くなるとのことだ。今年はあいつが青学の部長だ」
「へえ。…詳しいね、真田」


そう言えば、真田はちらりと俺に視線を寄越したが、俺は笑っているだけだ。そして小さく息を吐いた真田は、はっと笑ってみせた。


「貴様こそ、『ピエロ』はどうなったのだ」
「ああ…元気にしてるよ。彼ならね」
「…そうか。…さて、俺には『ピエロ』の正体。いつ教えてくれるのだ」
「そう言いながら、もう分かっているんだろう?彼、特徴多いし」
「…まあ、予想としては、だがな」


そうして真田は、東京に行く用があるのだと言って駅に向かった。ふう、と息をついた俺はズボンの左ポケットに入れておいた携帯がバイブで着信を告げるのを感じ、携帯を取り出した。着信の名前を見れば、思わず笑みがこぼれる。


ピエロ。
それは、俺達『スナイパー』と同様、コードネームである。道化師。それを意味するコードを名前にするなど、彼らしいと言えば、彼らしいのだ。
彼は、決して『スナイパー』の一員ではない。だが、俺達の、味方であり、仲間である。真田は彼の正体を予想の上では理解していると言ったが、おそらくあれは確信がある。…ピエロである彼も、自力で俺達『スナイパー』の正体を暴き接触してきた奴だ。とても、面白い。


「もしもし?」
【久しぶり】
「ああ、そうだね。  。今日はどうしたんだい?」


にやり、と電話の向こう側で笑ったであろう彼―『ピエロ』に俺は笑いかけた。




「ふん。『ジキル博士とハイド氏』か。面白くもない冗談だな」


あの後。図書室をばらばらに出た私と蓮はTHの部屋へと向かった。部屋にはマサが居て、紺色の腰エプロンを身につけ、台所で電話をしていた。声をかければ、驚いた様に振り向いて見せ、何かを誤魔化すかの様に笑みを浮かべ、電話の向こう側に断りを入れて電話を切った。そして蓮が要求したコーヒーを淹れてくれると言うので、私はブレザーを脱いでリビングのソファにかけてマサを手伝おうとした時にロックしたドアの鍵が開くのが聞こえた。景吾君だった。
どうやら今日は部活がミーティングだったらしく、滝君のこともあるため、こちらに寄ったのだと言う。夕飯も食べておきたいと言った景吾君に、電話を貰っていた為、景吾君の分を用意してあるというマサにさっきの電話は景吾君だったのかと思った。

改めて4人分のコーヒーを持ってきた私とマサが椅子に座ると、蓮がおもむろにさっきのルーズリーフを景吾君に渡した。中身を見た景吾君は、流石masterだなと言ってから、ルーズリーフに目を通した。通したあとの第一声が以上の言葉である。


「流石だな、跡部。『ジキルとハイド氏』。すぐ気がつくとは」
「これは小さい頃、原書で読んだ。最近、レギュラーの奴らが英語の勉強を始めたとかで貸してやったから余計な」


そう言って景吾君も一枚の二つに折りたたんだ小さなメモ用紙を机の上に置いた。


「滝に話をつけてきた。…THに予定は合わせると言ってる。それと感謝を」
「…会ってから言えばいいんに」
「…噂があるからだ」


マサが苦笑してみせれば景吾君はそう言ってコーヒーを一口飲んだ。噂?と蓮もマサも訝しげである。すると景吾君は右手で髪をかき上げなら言ってみせた。…やばい、その前に今の仕草はすごく格好よかったというか色気やばかったぞ。お風呂上がりのマサと同じか、それ以上…とそこまで考えて変な方へベクトルが向いてしまった脳内を整える。


「…THは学生の味方の正義のチーム。人数は2人以上の複数。…全部、最近流れてきたんだがな」
「どういうことなんだ…情報源は?跡部、お前のことなら、突き止めてくれたんだろう?」


蓮がそう言えば、景吾君は、ああと小さく呟いて、そして言った。


「『ピエロ』。道化師の意味のこのコードを持つ、情報屋と呼ばれるやつだ。もっともやつも、学生であり、そして。俺より技術はない」
「ピエロ、のう。俺への当て付けの様なコードじゃ」
「なあに?swindler?昔のことを、思い出したの?」


小さく苦笑いをして言ったマサに笑ってそう言えばマサはこいつ、と小さく小突いてきた。その後、ははっとマサは笑った。


「マサ、心当たりがあるのか?」


蓮が言ったそれに、マサはいや、と真顔で首を横に振った。


「俺がswindlerなら…俺に似た奴は、ピエロじゃなと、思っただけなり」
「マサに?」
「…仁王に、似た奴?」


120219
さて、『+』で予告した通り、新キャラです。