TH | ナノ

eighth code

「『ジキル博士とハイド氏』?…確か、6番棚だと思うけど…案内する?」
「ああ、ぜひ頼みたい」


図書室。
図書士の先生と去年仲良くなった私は、今年もなってよと推薦を頂き、無事に図書委員になっていた。図書士の伊藤さんは、私がパソコンに強いことを知ってるので、いろいろ頼んでくる。まあ、楽しいからいいけど。

今日は何も言われなかったし、今日の5時間目と6時間目の間に聞いた越前君って人のことを調べようかな、と思っていれば、蓮がカウンターにやってきた。なんの本も持たずに。どうしたの?柳君、と学校では赤の他人なのでそう聞けば、『ジキル博士とハイド氏』を読みたいがどこにあるか分からないと言ってきた。いつも、本の場所をも把握している蓮が私にそう聞いてくる時は誰にも聞かれたくないことを話したいから。

つまり、TH関連か、幼馴染としてか。どちらかである。

私は頷いた蓮を見て、確か今日はコートの整備日で部活は休みと言ってたなあ、と思いつつも立ち上がり、パソコンをスリープモードにしてからカウンターを出た。ちなみに部活が休みだと言ったのは、紛れもなく隣の席の神の子である。


「で、どうしたの?蓮」
「…TTの、暗号が解けたんだ」


得意げに笑った蓮は右の胸ポケットから一枚のルーズリーフを出した。…どうせ先生に信用があるのをいいことに授業中に解いたんだろう。


「言っておくが授業中は解いていない。…お前だって分かってるだろう、この状況を」
「…分かってるよ。…見せて?」
「ああ」


蓮から受け取ったルーズリーフは半分に折ってあった。それを開けば、上半分にTTの暗号と思われるメッセージがそっくりに写してあった。下半分には英文が3つと、日本語文。まず英文に目を通せば、


「…これって…」
「ああ。マサもすぐ気がついた。そう、」



「なあ、今回の暗号、『ジキル博士とハイド氏』、使っただろ」
【よく分かったね】


自分の部屋で携帯を左手に握り、右手で自分で今先程口にした本を持った彼は電話の向こうで楽しそうに笑っているだろう彼に言った。

今回の電話の相手は前回電話した彼のところに居た、そう、コーヒーとココアを淹れに行った彼だ。はあ、と仕方ないとため息をついた(だが、そんなに落胆の様子は見受けられない)彼こそ、前回電話の向こうに居た彼なのである。


「それにしても、今回はお前の番だから少し気になってたら、お前らしい暗号になったよな」
【…あんただってクセあるから、少し直していかないとバレるよ?THやスナイパーに】
「THに、スナイパー、ね…」
【  ?】
「いや、あいつらだって、なんで俺達なんかを追いかけてるのかって思って」


こちらの彼がそういえば、電話の向こうの彼も黙ってしまった。

彼等は知っている。
自分達を追う、THと言う存在と、自分達とTHを追うスナイパーの存在を。


そして、彼等は、次の行動の作戦を立てる。


120218
最後のTTサイドは第三者視線で書いてあります。