たぶん神様


そして。
次に私が目を覚ました時には、周りは真っ白だった。


土手に落ちた格好のまま私は起き上がり、きょろきょろと周りを見渡す。一面、白。…気絶すると意識ってこうなるのか…。今まで骨折もしたことのない健康体だから知らなかった。


身体を起こして、とりあえずその場に正座しようとして、右足に痛みが走ってやめた。


「…うわあ。変な色」


見てみれば、私の向う脛辺りは赤紫っぽく変色していて、変な風に腫れている。…ん?あれ?私、タイツ履いてたよね?なぜに素足?冬だから寒くて、近頃は学校指定の靴下からタイツに変えたばかりだったし…それになんでローファー履いてないの?制服は着てるのに。
私の学校は、高校生ってのにセーラー服で、しかも冬服は真っ黒だ。しかも学校指定カーデもあるから、そのカーデも真っ黒だから、頭のてっぺんから爪先まで本当に真っ黒なんだよね。

おっと、話が逸れた。

とりあえず、どうしたら目が覚めるのかを考えてみる。すると、


「やあ!」
「ひあっ!」


後ろから肩を叩かれました。
…びっくりして声を上げて、恐る恐る振り向けば、スーツを着たお兄さんがにこにこと笑っている。やべ、かっけえ。モロ私の好みではないか。…てか、なんなの?一体。私って頭ん中、なに考えての?


「いやーごめんね。なまえさん」
「は?って名前なんで知ってるんですか?」
「だって俺神様だから」


………。…どうやら私は土手から落ちた拍子に頭を強く打ったみたい。…それだったら寝たりすれば戻れるんじゃない?
そう私が考えていたら、お兄さんは私の前に正座をした。何をするのかと見て居れば、そのまま手を膝の前に着いて、


「ごめんなさいっ!!!」
「はあっ!?」


そう大きい声で謝った神様。…この人、本当に神様な訳?


「あの、実はですね、聞いてください」
「…まあ、いいですけど」
「そのですね。神様って言ってもこの世界の神様で、ちょっと暇だったんですよ。だから、他の世界の神様である兄貴と妹とすごろくやってたんですよ。そしたらですね。さいころが転がりすぎて、ちょっと突風を作っちゃたんです」


…正直、突っ込みどころが多すぎる。
でも、おそらくこれは夢だ。大体、神様がスーツ姿とか、前読んだ本じゃないんだから…。まあ、あれは天使がスーツ着てたけど。…とりあえず私の頭どうなってんの。

…ていうか、電話来てたじゃん。たぶんママだよー…。
心配したんだろうな。…早く目を覚まして、電話してあげないと、やばい!


「ちょっと!聞いてますか!」
「うあっ…すいません…突風が起きたとこまでは聞いてました」


…とりあえず、私の頭が作ったとは言え、しつこい…。…仕方ないから、話付き合ってあげよう。どうせ、目が覚めたら忘れちゃうんだろうし。よく小説だとそうだよね。…なんかネタに出来るかなって思ったんだけど。


「そう、突風が起きて、それで自転車を漕いでいたあなたに向かって行ったんです。そしたら、ちょっと自転車の向きが変わってしまって、あなたが土手から落ちた、という次第になります」
「…馬鹿じゃないですか?」
「すいません。それと、ここはあなたの頭の中ではありませんよ?言っときますが」


そう真顔で言った神様。
別に信じなくてもいいですが、目を覚ましたらもう信じるしかありませんよと今度は苦笑いで言った。

そして、こう言った。



俺が起こしてしまった突風のためにあなたは落ちるべきではなかった土手から落ち、負うはずも無かった怪我をした。ただこれだけならば、まだ問題は少ない。
だが、その怪我が問題だった。
両足骨折に右腕骨折。しかも、左足は神経に傷がつき、もう以前の様には動かない。
よって、これからのあなた(つまり、なまえ、私)の人生は大幅に狂った。この後、あなたは希望する大学に合格し、そこでまた苦労するが、普通の人生を送るはずだった。なのに、左足が動かなくなったことで、これからのあなたは大学も変えてしまい、送るはずだった人生の倍以上の苦しみを伴う。
よって、俺が用意した選択肢は2つ。
1つは、このまま目を覚まし、この苦難を乗り越えるか。
もう1つは、俺の力で人生を少し巻き戻して、土手から落ちない様にするか。
どうする?


「…どうするも、なにも。私のせいでないんなら、怪我をする前に戻して下さい」


私はそう答えた。
…これ、本当に夢じゃないんだったらすごいよ…?

分かった、と頷いた神様は、目をつぶった。…そして。


「…戻したよ」
「!ありがとう!」
「…ただ…」


…ただ?
私は座ったまま神様を見上げた。

神様は苦虫を噛み潰した様な顔をして。


「…他に管理してる方の世界と混じっちゃった」
「…は?」
「…もう、戻せないんだよな…どうしよう…家族とセットだし、いい?」
「…ええええええ」


いい?じゃないでしょ神様!
これ、本当に夢じゃなかったら大変なことだよ!何回も言うけど!


「まあまあ。時間も結構大幅に戻ってるけど、それは世界同士の時間が違ってきてるから仕方ないよねー」
「え、ちょ、神様!?別の世界なのは無視?!」
「…あーごめんな?親父ならなんとか出来るかもだけど、俺には1回しか出来ないんだわ」


もう会えないと思うけど、元気でな?

そう言って勝手に話を完結させ、神様は私の頭をぽんぽん、と叩いた。そして、憂いを帯びた顔で微笑んだ。

この神様。なかなかのイケメンで。イケメンに弱い私はうっ、ってなって思わず何も言えない。


「まあ、たぶん、なまえにとったら嬉しいかもしれない世界だから勘弁な。もう会わないけど、おそらくは見守ってるから!」


そうやって笑顔で言った神様はじゃあな!と元気に手を振って、去っていった。

そして、私は。
急に襲ってきた眠気に、ああ、この変な夢がやっと覚めるんだ、と思い、意識を手放した。

120210
スーツの天使は森絵都先生のカラフルから
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