私が次に目を覚ましたのは、地獄でも、天国でも、閻魔様のところでも、神様のところでも、苦しい血の海でも、綺麗な花畑でもなく、どこでもない、白い天井が見えた所だった。
なぜ、自分がこんな所に居るかは分からなかった。どうしたんだろう、私。ここは家?ううん。この天井は…保健室か病院?




「っ、葵?…葵、」

「…つ、ナ?」



首を捻って声がした方を見れば、ツナがベッド際の椅子に腰掛け、私を見ていた。近くに点滴も見えて、私の寝ている場所は、病院のベッドだと分かった。

私と目が合うと、ツナは珍しく、泣きそうになりながら、私の名前を呼んでくれた。
私がツナの名前を呼ぶと、にこり、と目を細めながら、



「よかった……葵、本当に…」



なにが、だろうか。なんで、ツナが泣きそうなのか、なにがよかったのか。そして、私がベッドに寝ている意味が分からなかった。だけど、



--ズキンっ




「い、」

「まだ動いちゃ駄目だよ」



全治、7ヶ月なんだよ、とツナはそう言った。なんで?私、なんかやったっけ。…リボーンの特訓に付き合わされた訳でもないし、なんで?必死に記憶を手繰る。そうすれば、はっとなって思い出した。
右腕、左腕を上手くは上がらないけど、上げてみてみれば、病院服の下から伸びる私の腕は上手い具合に色んな色の痣が出来ていた。





私は、屋上から綾香に突き落とされ、死なずに、ただの大怪我で助かったらしい。全治7ヶ月。身体には幾つかの手術跡と傷痕が消えずに残った。




「…ねぇ、葵?」

「なあに?ツナ」



私のこの怪我は、事故という事になってるらしい。

当たり前だ。
私は、恭兄にも、ツナにも、誰にも、あの毒花のしたことを言ってないんだから。誰も知らないんだ。リョーマ、雅治、精市、景吾、侑士を省けば、の話だけれど。




「…もうすぐ、ヒバリさんも、獄寺君も、山本も、京子ちゃんも…皆、来るよ」

「そうなんだ!!皆、来てくれるんだっ」

「だから、今のうちに聞くよ」



そう言って、ツナは私の目をまっすぐ見た。その、目、は、綺麗で、見たら、裏切れない。



「その怪我は、何かな?」

「な、何って、屋上からヘマって落ちた時のだよ?」

「それじゃない。……その、痣とか、何」



ああ。
私は隠し通したいのに。隠していたかったのに。ツナに、隠していられるとは、思っていなかった、けど。



「…話さないつもり?」



ツナはそう言って、ため息の様に、一回息をはくと、



「じゃあ、景吾とか忍足さんとか幸村さんとか、仁王に聞くけど、いいね?」

「…ダメっ…っつってー」

「まだ起きちゃダメでしょ?」



笑いながら、ツナは私をベッドに寝かせる。…やっぱり、ツナは分かってる。青学で、何かあったことを。私が綾香を探る依頼をした本当の意味を。

するとツナはねぇ、と前置きして、



「俺達は、仲間だろ?」

「……ん、」

「じゃあ、話せよ。
ちなみに、話さなかったら、ヒバリさん言いくるめるの葵だからね」



…それが、一ヶ月寝てた人に言う言葉?くす、と笑ってしまった、私。

…ああ、なんだか今、胸が軽くなった。




そうだね、ツナ。私達は、仲間だよね。



「…夏目、綾香、」

「…そいつがどうかしたの?」

「……私を、屋上から、落とした、奴」



ゆっくり、とツナの目が大きく開かれた。









まだ昔々の話

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