あの日。誰かが篠原先輩と話すのを俺達は聞いた。篠原先輩は何も言わなかった。相手の人は高笑いをしていた。いつもと変わりすぎているそれに俺達は呆気に取られ、そのまま会話を最後まで聞いてしまった。そして、確信できた。

やっぱり、篠原先輩は何もしていなかった。

最初から俺達は違うと信じているということだけでも知ってもらおうと思って3人で部室の前に来ていたんだ。そんな時、あんなこと、俺達は、聞いちゃって。どうしようか迷った。まずは篠原先輩に言った。高笑いしたあの人には一切取り乱さなかった篠原先輩は、必死に言った。なるべく一人で居ないこと。何かあったら篠原先輩に言うこと。篠原先輩が居なかったら越前に伝えること。何が起きようと今のことはレギュラーにも、他校生にも、内緒に。そして、自分に敵が出来たら自分とは無関係を押し通すこと。

俺達は守ると頷いた。だけど、一つだけ守らなかった。ある一人の先輩に話したんだ。いつも仲良くしていた先輩はあの人の完全なる味方だったから、もう一人の2年の先輩に。俺達が知ってることはなるべく詳しく。知ってると言っても、あの会話ぐらいだったけど。その先輩は俺達の味方ではあったけど、篠原先輩の味方ではなかった。そう。俺達のことは心配してくれたし、守ってもくれたが、篠原先輩のことは心配もしなかったし守ってもくれなかった。

そして、篠原先輩が亡くなった。
亡くなる数時間前まで俺達と居た篠原先輩は、自殺なんてする程、追い込まれて居なかった。悲しそうでもなかった。どちらかと言えば、哀れんでいた。あんなことをしなくてはならない程のあの人に。そのあの人を選んだ先輩達を。そして、言った。私の本当の仲間に今度会わせてあげるよ、と。篠原先輩の本当の仲間のことは以前から聞いていた。並盛に居ることも。すごく、仲がいいことも。 その人達の話をする篠原先輩は、すごく楽しそうで。その先輩は、以前までは、普通に見られたのに。俺達は1年生で。だから、篠原先輩の本当の笑顔を見たのは、本当に数えるぐらいしかない。


「堀尾。早くするっちゃ」


あの時から、10年が経った。俺達3人は、篠原先輩が亡くなったことで、あの人とあれ以上一緒に、同じ所に居たくなかった。俺達は、都内の私立の学校にそれぞれ転校した。カチローは、小坂田と竜崎に会ったらしい。俺達は、ほんの少ししか事実を知らない。篠原先輩が亡くなった理由も。あの人があんなことをした理由も。何も知らない。

風の噂で聞いた。あの人は、高等部でまた同じことをしたらしい。


俺はあれから、大学は大阪の大学に進み、ある会社に入社した。年齢は全く問わず。能力のみを見て採用する。その会社の本部はイタリアにあった。俺は、大学2回生の時に、2個上の先輩2人に推薦され、入社した。俺が今、配属されている部署はチーム制だ。俺と、俺を推薦してくれたその2人の先輩。

今日は、人と会う約束が入っているらしく。千歳先輩は、それだけ言って笑った。千歳先輩も、金色先輩も、青学のことを知っていた。どこでどうやって仕入れたか分からないが、青学でレギュラーだった先輩達の就職先も。


「はい!」


俺は、返事をした。金色先輩は、先に行ってしまった。なんでも今日会う約束をしている人が、迷子になりやすいらしい。 年は俺と同い年。俺が働いている会社は、日本関西支部だが、今日来る人は本社勤めらしい。関西支部に用事がある様で、千歳先輩に連絡を入れたらしい。

水曜日。今日は水曜日だ。
日曜日に、俺は先輩達と一緒に東京に出る。ATBの本社で、専務となった跡部さんと協約を組むために会う約束をしている。



あの日。俺達が、海堂先輩だけじゃなく、違う先輩達にも。あの人と篠原先輩の会話を知らせていれば、篠原先輩は生きていたのだろうか。

分からない。








あ の ひ の こ う か い
(堀尾編スタート)

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