まだ 君 が、俺達の中心に居たころ。
その頃はまだ、部活の雰囲気が明るくて、すごく楽しかった。
まだ 君 が、俺達の中心に居たころ。
俺は、俺達は、無条件で 君 を信じているつもりだった。
まだ 君 が、俺達の中心に居たころ。
俺は自分が間違っていることを あの子 に伝えられた。
まだ 君 が、俺達の中心に居たころ。
俺はガキで、何も分からなくて、俺は 君 も あの子 も、

 全て を拒絶した。





「そうだ、葵、お前連絡しろよ」

「連絡?」

「あいつに、連絡してやれ。珍しくうろたえてたからな、なあ、隼人」



跡部君がそう言うと、獄寺さんはああ、と頷いた。早く、してやった方がいい。そう獄寺さんも言った。じゃあ、俺はここら辺で居なくなった方がいいかな。そう思って座っていた椅子から立ち上がると、あ、と雲雀さんに呼び止められた。


「ありがとう、ございました」

「え、…あ、いえ。当然ですよ。
それに、俺は検査を促しただけですから」


苦笑混じりに返せば、それでも、と雲雀さんはまた微笑む。ああ 君 によく似た人に会ったよ。

…葵ちゃん。


それに、頷くだけで返し、踵を返そうとすれば、大石、と呼び止められた。今度は跡部くんだ。どうかしたかい、と聞けば、俺からも礼を言う、と言われた。そして、少し話そうと。どういうことか分かる前に跡部くんに腕を掴まれ、俺は跡部くんに引っ張られながらという形で緊急のベッドルームから出された。跡部くんはそこから少し歩いた廊下のベンチに座った。同じ様に座る様に促され、俺も同じベンチ反対の端に座る。


「悪ぃな。時間大丈夫か」

「え、ああ、大丈夫だよ」


そう返すと、そうか、と呟いた跡部くんは深いため息をした。そして額に右手をついた。もう一度ため息をすると、額に手をつくのは止めて腕を組みながら同時に脚を組み、背中を後ろの壁に若干預ける状態を作った。


「…なあ、大石」

「なんだい、跡部くん」


名前を呼ばれ、跡部くんにそう返す。すると、跡部くんは、俺を真っ直ぐに見た。なんだか、心臓が悲鳴を浴びそうになった。跡部くんの両目はあの頃から幾らも変わりなく、あの頃にじっくり見た訳でも無かったのだが、青く、澄んだ色をしていた。ああ、俺達は、もう戻れない。あの頃、の。澄んだ時は消えていった。頭に何かが、ガンガンと響く。いたい。何かが、入ってくる。跡部くんはそんな俺を知るよしもなく、口を開いた。


「俺達は、あの頃、お前達の敵だった。色んな意味でな」

「…それは、」

「テニスで言えば、宿敵、ライバルという名の敵だった。だが、」


違う意味でも、俺達と、お前達とでは違った。お前達はあの女。俺達はあいつ。お互い信じるものが違う。たったそれだけだったのに、俺達もお前達もあいつの人生を終わらせてしまった。俺達は、なにもしてやれなかった。あいつは結局一人で死んでいった。お前達が、何を失くしたか俺は知ってる。そう言った跡部くんは、その目で俺を睨んだ。


「俺達は、助けられなかった。だけど、あいつが死んだことで、ある奴が動きはじめた」

「…ある、奴、かい?」

「そう。ある奴、だ」


心底楽しそうに跡部くんは言った。そして、話は終わりだと立ち上がった。本当はもっと言いたいことがあるし、個人的には言ってしまいたい。だけど、それは約束を破ることになる。だから、これ以上話すことはねえ。手塚とお前の味方に伝えとけ。近い内に会うことになるってな。

そう言った跡部くんは、じゃあな仕事中悪かったと言ってそのまま、また緊急のベッドルームに入って行った。





ある、奴。
その人が、キーパーソン、なのだろう。

今になって。10年経った、今になって、動きはじめた跡部くん達。俺達、ということは、氷帝のレギュラー、だろうか。今になって、自分達が葵ちゃんの味方だと公言する必要性は全くもってない、はず。手塚と皆に伝えろと。

近い内に会うことになる。

それは、どういうことなのか。今になって言い出したこと。それと、あいつと表現されたのはおそらく、葵ちゃん。あの女は綾香、だろう。


そう。跡部くんが言ったあの頃とは10年前。敵や味方とは、10年前の綾香が虐められた時の話。俺達が綾香の味方だったのならば、氷帝は葵ちゃんの味方だったのだろう。


ああ、頭がイタイ。なんなんだよ、一体。頭痛のタネには気付いてる。一気に入ってきた10年前のことだ。今、頭の中で有り得ない話が作り上げられている。そんなはずなんてない。有るわけない。そう、そんな話あってはいけない。そうであって欲しいとか望んだけれど、それだけはダメなんだ。俺達に、関わらないでくれ。もう、無理なんだ、俺達は、もう。俺は、そう思いながらも、組み立てていた話が自然に崩れ去るのを祈った。






そう。葵ちゃんが生きているなど、事実なんかじゃない。ただの、勘違いだけ。









き み た ち に あ え た な ら ば

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