「急患よ!急患!早くストレッチャー通れる様にして!台車用意して!」
「はい!」
「点滴用意した?!早く!!」


ちょうどリハビリ室に行こうと通り掛かったそこは、救急車から運ばれた担架が台車に移動され、外科の先生は待機出来てるの、出来てます!そう言う対応が流れていて。救急車から運ばれてきたストレッチャーはそのまま緊急オペをする様でオペ室に入って行った。事故か何か起きたんだろうな、と思いそのままリハビリ室へ向かおうとした。オペ室から視線を外すと連なる3席セットの椅子にふ、と座った女性が居た。ここからじゃ、詳しくは分からないけど俺と同じぐらいか、もしくはそれより若い。その人はそこに座り、救急車の隊員が事情を救急の医師に説明している。すると、途端にその人の身体は傾き、前のめりに倒れる。


「、葵ちゃん!」


そう言って俺はその人を支えて居た。え今、何を言ったんだ俺は。いや、確かに俺は今、この人を、倒れたこの人を、葵、そう、「葵」と。昔みたいにちゃん付けまでして。葵ちゃんと確かに、呼んだ。


「あら、知り合いの方ですか?大石先生」
「…あ、村田先生」


そう俺に聞いてきたのは救急に移った、昔整形外科に居らした村田先生という中年の女性の先生だった。近くに居る救急隊員の人は俺が抱えてる人を見た。


「…この人、付き添いで乗ってきたんだけど、すごく落ち着いてらして。聞けば精神科の先生だそうです。…たぶん、気を張っていたんだと思いますが、何せ今運ばれた方に庇ってもらったらしいので早めに精密検査をしてください」
「あ、はい。分かりました」
「大石先生、ごめんなさい。私、さっき運ばれてきた別の患者さんを見なくちゃいけないから、その方、頼んでもいいかしら?」
「はい、構いませんよ」


リハビリ室は今日中に行ければいいし、何より患者さんが優先。俺はこのまま抱き抱えていくにも大変だし、救急の同僚に精密検査を手伝って貰わなきゃいけないし、とりあえずこの人を担架に乗せることにした。村田先生と救急隊員の人が手伝ってくれ、担架には乗せれた。あとは任せて下さい、と言うと村田先生は戻り救急隊員の人はご苦労様ですと言い救急車に戻った。俺は、その人の胸部から腹部、脚までが隠れる様にタオルをかけた。救急はタオルをよく使うから一枚救急から失敬した。長い髪が乱れているから、一応髪も整えた。そして、息を呑んだ。


「…それ、で、か、」


その人は、葵…篠原葵ちゃんに瓜二つだった。篠原葵。綾香を虐め、学校の皆から嫌われ、自殺をした女の子。医師になったからか、やっぱり自殺だけは防ぐべきだったと思う。話を、聞いてあげるべきだったんだ。頭ごなしに決め付けて、態度を変え、少しはあの子の言う言葉に、耳を傾けてあげるべきだったんだ。そしたら、葵ちゃんはここに。もしかしたらどこかで笑って過ごせて居るのかもしれない。





精密検査を受けた葵ちゃん似のこの人。能の精密検査はもう少しあと。この人が意識を取り戻してからじゃないと。この人が女性だったから精密検査を手伝ってくれた同僚の女の先生が言うには、庇われたとは言え、身体のあちこちに打撲があるらしい。とは言え、骨折などはないから、庇った人の庇い方が上手かったんだろう。そして、


「古傷が、酷いわ」


腹部と脚のつけね、左腕上腕、それと胸部に傷がある、と眉を寄せた。深い切り傷だったらしい痕が残る左腕上腕以外は全て手術で塞いだ様な傷らしい。そんな所、手術で塞ぐ、だなんて、例えば、事故とか。

そこまで考えて俺は、息を呑んだ。まさか。いや、でも、


「…何があったか知らないけど、交通事故とか、高い所から落ちたんでしょうね」


そうじゃなきゃ、こんな所怪我しないわ。傷の痕からみて時期は左腕上腕以外は全て同じ時期らしい。なら、


「…まさか、」
「大石君?」
「…あ、いや、ありがとう。えっと、その人は、」
「ああ、雲雀葵さんと言うみたいね。一応、救急のベッドに運んであるから、頼んでいいかしら?」
「…あ、うん、分かったよ、ありがとう」


…雲雀葵。どこかで、聞いた名前だ。というより、名前が同じじゃないか。それなら、名字だけ変えてるんじゃないのか。いや、それは何のために?あの時、俺達は、葵ちゃんの葬式に行ったじゃないか。……葬式?そこまで考えて、はっとなった。そうだ。葬式は、「雲雀」君のうちでやったんだ。雲雀。…同じ、名字じゃないか。


「…まさか、きみ、は、」


ベッドの上で横になって、まだ目は閉じたままの君。ベッドのプレートには雲雀葵と書かれている。君は、まさか、








も ど っ て き て ほし い と せ つ に ねが っ た
(大石編スタート)

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