走っていった葵ちゃんを追いかけ、俺も店を出た。すると、葵ちゃんは俺に背中を向け道路を見ながらそこに、立っていた。


「、葵ちゃ、ん」

「あの日も、こんな感じの天気でした。快晴!そう、澄み渡って、決めた事が上手く行きそうな!」

「あ、の、日?」


そう、あの日。葵ちゃんは相変わらず背中を向けたままで、それだけ言った。


「…あの憎い女が転校してきた日。あいつが私を突き落とした日。あなた達と再会した日」

「あの、日、…葵ちゃんの、命日、」

そう言うと葵ちゃんは高らかに笑った。あははは!そうよね!1ヶ月後に死んだとしても正確なものなんて分からないものね!そう笑った。でも、それは、心底面白い、て笑いじゃない。すると、葵ちゃんは振り返った。


「そうよ。あの日、私は最後に貴方達に暴力を、…ああ。貴方は参加してなかったわね。まあ、貴方達に暴力をふるわれ、そのまま屋上に放置されたわ」


さっきまでの涙は何処に消えたのか、葵ちゃんの顔には、涙の跡なんて無かったし、表情も氷みたいな、全てを拒絶した様な様子だ。一歩、俺に近づく。


「そして、そのあと、綾香が来た。そろそろ死んでくれるかと笑われたわ」


ふふ、と笑った葵ちゃん。また一歩俺に近づく。…まさか、綾香がそんな人だったなんて。俺は、葵ちゃんこそ嵌めた奴だけれど、そんな奴だとは思っていなかった。突き落としたとは思っていた。だけど俺が考えてたのは違っていた。てっきり俺は、正確なことを正しいことを葵ちゃんに言われ、逆上したとか。そういうのを考えていたのに。そう、ではなくて。


「そして、私は突き落とされたのよ。屋上から」


そう言ってまた一歩。俺と葵ちゃんの距離はもう、30cmも無かった。


「許さない。そう思ったわ、絶対に許さない」

「…じゃあ、なんで復讐、を、」

「私は確かに皆を止めた。そして、自分の中でも完結させていた。--つもりだったのよ」


ぎゅ、と俺の服を握る葵ちゃん。顔は俯いていて様子が伺えない。


「それなのに!変わって居なかった貴方達と再会してしまった!もう止まらない、そしたらもう止まらないわ!」


復讐を誓ったのよ。昔に。そう小さく続ける。本当は復讐なんてしたくない。したくなかった。だけど、もう許せることが出来ないの。闇の脚本家として。ボンゴレとして。篠原葵として。そして、私、雲雀葵として。


「…ごめんね、本当にごめん」

「……今更、謝っても何も変わらないわ。…タカさん、」

「なんだい、葵ちゃん」


葵ちゃんは俺を見た。真っ直ぐな目で見た。


「私が今から何をしようと、これだけは本当だから」

「…うん、」

「…本当、何やってるんだろ、こんなの、予定に無かったのにな」


そう微笑しながら葵ちゃんは、信じてくれてありがとう、とだけ言った。ごめん、葵ちゃん、ごめん。俺は、最初からずっと信じていた訳じゃないんだ。  君を最後まで信じてはいたけど、どこかで疑ってもいたんだよ。


「タカさん、もう茶番は終わり。予定通りにさせてもらうわ」

「うん、」

「…最後に言うけどね、」


にこりと笑って、葵ちゃんは後ろに下がりながら言った。




「全てを知ったあなたを、私が生かしておくと思う?」






それは、残酷に。
だけれど、真っ直ぐに、俺の心の中に突き立ち、俺はその痛みについ泣きそうにまでなった。

葵ちゃんは、道路に飛び出した。最後に最高の笑顔を。俺が好きだった笑顔を見せてくれて。そして、すぐに何かの音が聞こえた。音のした方を見れば乗用車がスピードを上げて突っ込んでくる。音はクラクションの音だった。間に合わない。俺は咄嗟に葵ちゃんと同じ様に飛び出した。そして、葵ちゃんを抱え込む様に抱きしめた。最後ぐらい、君を守らせて。



何か、鈍い痛みが走り、周りの音が遠退いていく。


うっすらと開けた視界からは、葵ちゃんが見えた。また、優しく笑った。



君の笑顔が好きなんだ。君が笑っていれば、それでいいんだ。葵ちゃん、笑って。あの時の分まで、


俺の分まで。
















「…馬鹿ね。簡単には死なせないわよ、タカさん、…ありがとう」

例え、仕組んだ事故だったとしてもね。


そう呟いたはずだ。葵ちゃんは。それでも、俺の右手を握ってくれている葵ちゃんに最後に笑いかければ、また笑ってくれる。ああ、ごめん、ね。葵ちゃん。ありが、とう。






そして、俺は目を閉じた。意識の終わりに、救急車のサイレンを聞いた気がした。






さ よ な ら な ん か じ ゃ な い
(河村編休止)

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