--木曜日。
今日は親父がネタの仕入れの話をしてくる日で俺一人でカウンターに立つ日。お客さん達はそれを分かってくれている常連さんが多いから、まだ未熟な俺の負担を軽くするためか、あまり来ないから、少し暇な日でもある。




「こんにちはー?」



そう入ってきたのは、葵さんで。今日は私服みたいだ。…そういえば木曜日は休みと言っていたっけ、派遣みたいなものだから、と。あれ今日はどなたも居ないんですか?と言いながら、俺の目の前に座った。俺はお茶を一杯入れて、葵さんの前に置いた。



「いらっしゃい。こんにちは。今日はどうしますか?」
「そうですね…」



そう困った様に迷いながら葵さんは呟いた。

…ねえ、葵さんに、俺が気付いてるって言ったら何かが変わるのかな、今更、今になって、君に何か俺が伝えられるのかな

 一体、君に何を伝えればいいのかな







「今日は、食事を取りに来たんじゃないの」
「…どういうことだい?」
「もうタカさんも気付いているんでしょう?」



そう言って、葵さんは、緩く微笑みながら、ゆっくりお茶を一口飲んだ。

 ああ、君はやっぱり止まらない。
 俺は、どうしようか。
 何をすれば、良かったんだろう。



「…そうだね、久しぶり、でいいのかな?」



葵さんは、ゆっくり微笑み、



「葵ちゃん」



ええ、と頷いた。
俺は、ゆっくり息を吐き、葵ちゃんの言葉を待つ。



「タカさんには沢山伝えたいことがあるんです」
「俺に?」
「まずは、あの時、悲しんでくれてありがとうございました。篠原葵が死んだ時」
「……」
「私の本名は雲雀葵と言います。青学には兄である雲雀恭弥の影響が出ない様に偽名を使っていました」
「……」
「あの時、綾香が私を嵌めたのは知ってましたよね?」
「……ああ」
「私は、貴方達を、貴方を、信じていたのに、」



そして、葵ちゃんはきゅ、と唇を軽く噛んだ。



「私は、あの日、タカさんが考えた通り、綾香に突き落とされました。そして、篠原葵を、殺すことにしました」
「…うん」
「私は、貴方達と過ごせた時間は大切でした。だから、復讐をしようと言ってくれた兄にも仲間にも、一切頷きませんでした」



そして、葵ちゃんは、俺を見た。葵ちゃんは、目にいっぱいに涙を溜めて、言った。



「私は、先輩達には、こんな風に会うつもりは無かったんです。…あの日、綾香の仲間をする、私を私の親友と、名乗る人に間違った事実を、伝える貴方達に会うまでは」
「……」
「…私は、悔しかった。貴方達が、まだ騙されていてっ、私の存在が、10年前から、あなた、達の、中で一切、変わって無かったことも!」



涙は頬を伝って、下へと流れていった。



「……あなた達が、綾香のファミリーだと言うことも、知っています」
「…やっぱ、り、ね。そうだろうと思ってたよ」
「…私は骸と私の会話を貴方が聞くのを知っていました。……私はボンゴレです」
「…うん」



そして、葵ちゃんは席を立った。そして、真っ直ぐ俺を見た。 そして、言った。




「掟も、復讐者も、味方。私の仲間はもちろん、皆、私の味方です。…私は、復讐することにしました」
「うん、」
「……でも、だけど!」



葵ちゃんは、優しい。優しいから、あんなにやられても、俺達が気付くのを待っていてくれた。



「っ、私っ、は!み、んなが幸せにっ、過ごしていて欲しかったのにッッ!」
「…ッッ待って葵ちゃん!!」



そして、葵ちゃんは、店を飛び出して行った。咄嗟に俺も被っていた帽子だけを床に叩きつけ、葵ちゃんを追った。










さ い ご ま で だ ま さ れ て い て

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