「…くそ、」



分からない。一体、どうしたんだ…!
パソコンを叩き割りたい衝動に駆られるがパソコンが無くなりでもしたら、俺は自ら武器を手放すことになる。それに一緒に居る相手も場所も悪い。



「ん?乾さん、どうかしたんスか?」

「ああ、山本君。……いや、なんでもないんだけどな」

「そうなんですか?」



ただ、君の友人の、あの、雲雀葵が、俺を苛立たせる原因だし、けれど君にそれを言うのもお門違いというものだと理解してるから、君には何も言わないけれど。



「てか、この会社も大変っスねー」



昼休み、珍しくカブッた山本君と近くに座りながら会社内のテラスで昼食を採る。俺はサンドイッチとスープのセットで、山本君はパスタのボンゴレだ。俺はファミリーの仕事兼のノートパソコンのエラー画面を見て呟いた。山本君は浅利をフォークの上に器用に乗せながら言った。



「まあ、な。社長はいい方なんだが、何せ会社内は全てライバルに等しいからな」

「ははっ。一番大変なのは俺達の会社だと思ってたのなあ」

「…そう言えば、山本君はボンゴレだったね?」



雲雀葵と同じ会社で、同僚だと聞いた。


正直俺はまだ雲雀葵と篠原葵は同一人物だと考えている。…あんな雰囲気を出せる女子が、篠原葵以外に居るものか。



昔から情報収集をしてきたからか、俺はいつの間にか、人のオーラとか雰囲気だとか、曖昧なものが分かる様になっていた。これは、殺気だとかに敏感ということとは少し違う。言ってしまえば、霧属性の不二が得意とする幻覚が、見破れたりするのだ。

そんな俺は、篠原葵とそれがそっくりな雲雀葵を単なる「篠原葵の親友」だとは流せなかった。

















「あれ、不二どこ行くんだよ?」

「昼休みが終わる前にちょっと外の空気を吸ってこようと思ってね」



昼食を食べ終わり、席をたつと仲の良い同僚が声をかけてきたので、そう返す。僕は白衣のまま、外に出た。そして、携帯を取り出す。…乾と、手塚にまずは連絡を入れて、タカさんには気をつける様に入れて。



「あれ?不二さん、ですよね?」



そして、僕の手は電話帳を開く前に止まった。聞こえてきた声にゆっくり振り向いた。そこには、



「……葵、僕は先に行ってるから」

「あ、俺も一緒行きますわ」

「そういえば、君は脳外科希望だったね」

「そうスね」

「じゃあ、案内しよう」



去っていく雲雀恭弥と財前光。



「ほな、葵ちゃんは、侑士君に任せて俺らは戻ろか?」

「侑士に任せんのはほんっまに不本意やけどな!」



白石蔵ノ介と忍足謙也。




「…不二さん、?」

「あ、ああ、ごめん。何かな?」



雲雀葵さんにそう聞けば、にこりと笑って言う。あの、実は、隆さんとチームメイトで、今も仲が良かった、て聞いて、と少し頬を赤くし言った。



「…ああ、タカさんね。そうだね、仲良いよ」



そう言えば、ぱあっと表情を明るくした雲雀葵は言った。



「あの、近々、隆さんにはそんなに関係あるのかな…?と、にかく、特別な日があって、隆さんに会いたいん、ですけど、平日ってやっぱり駄目でしょうか?」



そう聞いてくる。…この子のことはよく分からない。篠原葵ちゃんに見える時もあれば、それこそ雲雀葵にしか見えない時もある。二人とは全く別の、クールな印象を受ける時もある。…殺気を含んだ背筋が凍る、冷気をだ。



「いい、と思うよ。大丈夫。
タカさんの家は確か、木曜日になるとタカさんのお父さんがネタを仕入れに出かけてしまうから、常連のお客さんなんかは、人手が足りないしタカさんがまだ若い駆け出しで困るだろうって遠慮してくれるから、お客さんは少ない日だよ」

「木曜日、ですね、…ちょうど、特別な日と同じ日が今度の木曜日です!!…良かった」



そう雲雀さんが微笑んだ時、携帯の着信音が流れた。…これ、は、



「あ、私、です、」



…取り出した携帯の色も機種も、携帯についているストラップも、着信を知らせた着信音も、…葵ちゃんと一緒!



「…葵ちゃん、電話あいつやろ?」

「え、ええ」

「はよ出てやり。最近会ってなかったし、あいつも声聞きたいやろしな」

「ええ!!」



にこり、と微笑んだ雲雀さんは、走っていき、少し離れた場所で携帯を開いて、電話に出た。



「…忍足、」

「……俺は、信じてへんから」

「え、」



唐突だった。
それは唐突で、忍足の口から発せられたその言葉は理解出来なかった。でも、忍足の声はあの、背筋が凍る様な、殺気、みたいな冷気。



「信じてへんのや、俺らはまだ。…まあ、恭弥は勿論やけど。……葵ちゃんは、まだ飲み込めてへんし、事実を」

「お、し足、何言って」

「分からんか?
…篠原葵の自殺。あれが、本当に飛び降り自殺やったって事実や」

「…君、何が言いたいんだい?」

「分からん?…俺らは、自殺なんて信じてへん。あの子は、命の重さを重々に承知しとった。そんなあの子が、命を簡単に捨てる訳ない」



ぎ、と、拳を握りしめた。くそ。なんだ、こいつは。僕達が殺したとでも言いたいのか。…いや、違う。飛び降り自殺だった、紛れも無い事実。……原因は確かに僕達かもしれない。でも、殺しなんて、してない。

マフィアになった今でさえ、まだ、人を殺したことなんて、ないんだから。






う た が わ れ て

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