「こんにちは、乾さん」



笑顔で俺に微笑んだ雲雀葵は、俺の向かいの席で紅茶を飲んでいる。



「悪いね、急に呼び出して」

「いえ、で…どうかされたんですか?」

「いや……君に、聞きたいことがあって」

「私に聞きたいこと、ですか?」



雲雀葵は、俺の顔を不思議そうに見て、口に運ぼうとしたカップを持っている手を止め、首を傾げた。近付いてきたウェイトレスにコーヒーをブラックで頼んだ俺は言う。



「篠原葵、のことなんだ」



その名前を聞いた瞬間、表情こそには出ずとも雲雀葵の目に暗みがほんの少し挿した。

…ほら、ビンゴだ。



「…乾さんが、葵のことを、どうして?」


 今更なぜですか?




そう雲雀葵は俺を真っ直ぐ見た。





「君は、篠原葵の死を知らなかったね?」

「ええ、そう」

「おかしいんじゃないかい?」

「何が、ですか?」



雲雀葵はそう俺を見る。顔こそは笑ってるが、もう目は笑っていない。さっき挿した暗みがもう分かりやすく、俺への睨みに変わっていた。

そして、俺は切り出す。




…さあ、尻尾を出せ!







「だって、篠原葵の葬式は雲雀家で行われてるんだから。俺はそれに出席してるし、山本君だって出席していた」

 君は、篠原葵なんだろう?







「雲雀恭弥の妹である君がそれを知らない訳がないだろう?」

君は、何をしたいんだ?




あの時、死なせてしまった君を今、説得しても遅くないだろう?

だって、君だって---



----------俺の、仲間なんだから






すると、葵は笑い出した。ふふっ、と腹を左腕を巻いて、口を右手で覆うがそれは隠しきれていなくて、口元が微かに上がっているのが見えた。



「…何かおかしいことを言ったかい?」

「おかしいこと?ええ、おっしゃいましたよ?」



にこり、と笑った葵は、言う。



「誰が、誰の仲間なんですか?
どなたを説得なさるんですか?」



楽しそうに笑った葵は続ける。



「まさか、篠原葵の事かしら?そんなことないわよね?」



そして、上がっていた口角をきゅ、と結ぶと俺に言った。



「…すいません。ちょっと頭に血が上ったみたい…。でも、これだけは」

「…あ、はい」

「葬式の事は兄に、問い詰め最近知りました。でも、私が知らないのは仕方ない、と言ってもいいんです」

「…それは?」

「…私、並盛中は3年からで2年の時は違う中学に居たんです。私にいつも屁理屈をつけてくる子が居たんですけど」


私、その子に屈服したりしませんでした。一人になろうとも。私には「皆」が居たし。…そして、秋に、屋上から突き落とされました。それは大勢の男子にリンチを受けた後で、兄から教えてもらっていた受け身も取れないまま、私は地面に叩きつけられました。

…全治7ヶ月。 それが屋上から落ちて残ったものでした。「皆」は居てくれたし、退院してからの中学生活は並盛で過ごしましたが、葵だけ居なかった。

…誰も、教えてくれなかった。

……私がショックを受けるだろうと黙っていたらタイミングを逃したそうです。






「…だから、私は葵の死を受け入れようと今、もがいてるところなんです」







そう、儚げに微笑んだ雲雀葵に葵が俺達に制裁を加えられていた時の笑顔が、カブってしまい仕方がなかった。













き み は ど こ

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