葵さんは、あれから週に4回程、お昼をうちでとってくれる様になった。そう。俺は葵さん、葵さんは隆さん、と呼ぶ様になったのだ。


どうやら、話によれば、忍足病院で不二と会ったらしい。最初は全然分からなくて、名前のプレートを見ても、すっかり忘れていてしまったらしい。



さて、もうすぐお客が増えてくる時間だ。そして、もうすぐ、葵さんが来る時間だ。




俺は、密かに、葵さんがお昼をうちでとってくれることを、楽しみにしていた。






「こんにちはー」



間延びした、葵さんの声が聞こえた。



「へい、いらっしゃい!」
「いらっしゃい、葵さん」



声に笑顔で答えれば、



「今日も来ました」



と悪戯っ子の様に笑った葵さんは、ほら、と言って、扉の向こう側、外に顔を向ける。武、と呼んだ。一瞬、桃かと思ったけど、そんなはずがない。葵さんと桃とは、接点が葵ちゃんしかないし、二人が会ってると言うのも聞いたことがないし。…こう言うと、俺は何でも言ってもらってる、みたいだけれど、実際俺は大体の経歴を踏まえた葵さんのことを教えてもらっていて、最近のこともいつもここで、聞いている。




「悪ぃ悪ぃ!急に電話があってたのな!」

「あら、誰だったの?」

「鮫、なのな!」

「…鮫、が?明日、来日する予定じゃなかったかしら?」

「んーなんか、カエルと王子も一緒に来ることになっちまったぜぇ!って言ってたのな!」

「………ああ、頭痛い…」

「ん?葵、大丈夫なのな?」



たぶん葵さんの言ったことが頭痛という意味では分かっていないんだろう。そう、笑った男性は恐らく、俺とそう変わらない年な、はず。でも、顎の右下に走る小さな刀傷みたいな物がワイルドさを醸し出しているのか、年上みたいな感じもする。



「ん?葵さんのコレかい?」



親父が二人がカウンター席に並んで、俺がお茶と手拭きを出すと隣で親指を立てながら言った。葵さんは、シンプルな薄いピンクの縦ボーダーがほんの薄く入ったYシャツだ。下はグレーのパンツスーツみたい。医師としての白衣を病院に帰れば、葵さんは着るはずだから、それに合わせてあるんだろうか…?対しての男性も黒のスーツだった。ただネクタイがしておらず、スーツの上着の前ボタンは全て止めていない。あと、バットケースみたいな細い筒が入りそうな物を横の席の前に立てかけていた。



「ち、違いますよ!!」

「葵は、きょーやが怖くて、誰も近寄らないからなー。別に俺が彼氏でもいんじゃね?」

「ちょっと、武、」



また爽やかに笑った男性は葵さんに視線を流した。葵さんは、困った様に、だが、それは本当に困った顔じゃなくて、それが冗談だと分かっていての表情だった。


それより、……『きょーや』?




「恭兄は別に牽制とかしてないし、」

「でも、俺達じゃなきゃ、あいつの視線に耐えられないのな」




…『恭兄』。
たぶん、雲雀恭弥だろう。……葵ちゃんも、よく、そう呼んでいた。

「それより、武、何食べる?」

「俺はー…」



メニューを追っていた目が止まり、その目は細まった。これ、と隣の葵さんにメニューを見せた。



「ちらし寿司ね。んー…じゃあ、私も同じのお願いしようかな?」

「ちらし寿司、2つかな?」

「ええ。お願いします」



…にこり、と微笑んだ葵さんは、やっぱり葵ちゃんによく似ていて、心臓が、ときめくとは違った形で、ドクンと脈打った気がした。



「そういや、河村さん、だっけ?」

「え、う、うん。そうだけど、」



男性にそう聞かれ思わずお客様だという事を忘れタメ口を聞いてしまう。男性は、じゃあ、と言って、



「親父さん、お久しぶりです!」



と、親父に向かって笑った。

親父は一瞬何か分からなかったみたいだが(いや、俺も分からなかったけど)、ああ!とぽん、と手を打ち、



「武くんだろ?竹寿司の!」

「ええ。お久しぶりです。いつぶりぐらいなんスかねー?」

「大体…10年ぶりじゃないかい?いやー、立派になって!」



親しげに二人は笑い合う。ぽつん、と残されたのは、葵さんと俺だ。葵さんは、男性のスーツの袖をついつい、と引っ張った。



「武、隆さんのお父さんと知り合い?」

「ん?そうなのな!ほら、親父が知り合いで、」

「ああ、そっか」



男性に聞いて納得した葵さんに対し、俺はまだ理解出来ていない。



「ほら、隆。お前に前言っただろう?
剣道と野球と、寿司に仕事の4つ頑張ってる子が居るって。武くんがその子だ」



そう親父に言われると、男性は、やめて下さいよー照れるのなー!と頬に赤をさして笑った。そして、



「えと、俺、山本武っス。葵と同い年なんで隆さんとは一個違いなのな!実家は並盛の竹寿司!とりあえず、今は実家は継がずに、葵と同じ所で働いてます。よろしく!」

「あ、河村隆です。よろしく。…て、病院、?」

「あ、カンパニーの方です。武は、同期で一緒に来てる中の一人ですよ」

「別に同期じゃなくて、先輩達とか、明日は鮫も来るし、ボスだって、」

「、武!」

「…、悪ぃ」






山本君がそう言ったら、葵さんは、ぎゅ、と山本君の腕を握った。山本君は、あ、と葵さんを見て、そう、小さく呟いた。






き み た ち は い っ た い 、

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