「あ、不二!」
「おはよう、どうしたんだい?そんなに慌てて」
10年経った今、僕は忍足病院の薬剤師として働いている。それと、
綾香のファミリーにも所属している。
青学のテニス部の皆は、連絡があれから一度も取れない越前以外は、了承の上、皆、綾香のファミリーだ。
ラルツォーネファミリー。
綾香の家は代々、夏目財閥として表世界だけを生きてきたらしい。そして、綾香のお母さんである奈波さんが、夏目財閥の2代目当主だったらしい。よって、一人娘の綾香は3代目となった。
そんな綾香がなぜ、マフィアかと言うと、綾香のお父さんである響さんが、5代目ボスだったから。
綾香にそれを打ち明けられたのは、皮肉にも葵ちゃんが死んで暫く経った、僕達が中等部を卒業する間近の2月。久しぶりに部室で会おう、となって僕にとっては正直どうでもよかった綾香に呼び出され、行ったら、そんな話だ。ただ名前だけ、ただこのリングを持っていて欲しいんです、といつもの声色で言われた。皆、固まっていた。まさか、そんな映画みたいな組織が本当に存在していたなんて。
そして、僕等はファミリーになった。綾香は段々成長していった、と皆は言っているが僕に言わせてみれば本性を見せはじめただけだったけど。
僕達は、仕事を覚えつつ、マフィアのことを少しずつ知っていった。綾香は、先輩達の夢まで奪うつもりはありません、と言って、普通の仕事の傍ら、マフィアの仕事をしてくれと僕達に頼んだ。だからか、まだ僕は人を殺したことがない。
そして、マフィアに近付くにつれて、分かったことが一つあった。
ボンゴレファミリーについてだ。
イタリアンマフィアの中で最強であり最長、敬意を払われる程のファミリー。綾香が最初は教えてくれた。でも僕はそれだけじゃ、なんだか、しっくりこなかった。だからか、マフィアのネットワークに入り、ボンゴレを調べた。…いや、調べる間もなくすぐに知ることが出来た。どうやら、ボンゴレを知らない人はマフィア関係者に居ないらしい。
今、ボンゴレのドンは10代目。どうやら僕とあまり変わらない歳。
同盟ファミリー、キャッバローネをはじめとし、強豪揃い。
そして、10代目守護者(僕達も綾香の守護者だ)最強と謳われる、雲の守護者、雲雀恭弥。
葵ちゃんのお兄さんと同じ名前。
もちろんのこと顔だなんて分からないから、断定は出来ない。現に、雲雀財閥は、今も成長中の財閥だ。
だけど、雲雀恭弥。…そうそうあるはずのない名前だ。
「あのな!今日、新しい先生が来るんだってよ」
「新しい先生?」
僕はそう聞き返した。新しい先生?どこに来たんだろう。
「ああ。一人はな精神科の先生でな、なんか俺達より一個下らしいんだ」
「一個下?…一個下ならインターン中じゃないのかい?」
そうだ。医者は僕達、薬剤師と違って、大学が6年あり、最後の2年にインターンと言って、色んな科を回る。
「なんか、イタリアから来た先生で、向こうで飛び級しまくったらしいぜ?」
「…それは、凄いね」
「ああ!んで、もう一人は、同じくイタリアから来た先生。脳外科らしいぜ?」
「へえ、」
「そんでな!」
同僚は僕の肩に腕を回し、耳打ちをするように小さな声で言った。
「二人とも医院長先生の息子さん、侑士さんのご友人で、兄妹なんだってよ」
「兄妹?」
「ああ。確か…名字は、んーと…」
「…名字は?」
「急かすなっての。雀?…違うな。鳶?いや、啄木鳥?…悪ぃ!忘れた!確か鳥の名前だと思ったんだけどよ」
「………雲雀、」
「え?」
「雲雀じゃないかい?」
「あ、そうそう!お前なんで知ってんだ?」
僕に同僚の声は届かなかった。
ちょっと、待ってくれ。
どういうことだ。なんで最近になって、「雲雀」の文字ばかり。
つい最近、雲雀恭弥に潰されたファミリーが人体実験をやってたことが分かったばかりだし。
先日、青学で雲雀と名乗る葵ちゃんを知ってる女の人が来たし。
そして、その上っ!
病院に来る新しい二人の医者が、雲雀っていう兄妹だって……?
惑わす名前