雲雀恭弥との出会いは確か、僕が2年の終わり。あの後、僕達は3年、葵ちゃん達は2年、そして越前が入ってきて、何故か葵ちゃんと、越前は知り合いで、皆がいる時は、「葵さん」と呼んでいたけど、2人で居る時や、跡部、氷帝の忍足、幸村や並盛の人達が居る時だけは、「葵」、と呼んでいて。


葵ちゃんも、僕達と居る時以上に笑顔で。




僕はそれを何度か見たことがあった。


見る度、何故か、自分が嫌で、嫌で仕方がなくて。

だけど、葵ちゃんは好きで。


どうしようもない、幼い嫉妬心でいっぱいで。今、思えば、本当に何故か分からないぐらい、あの頃、嫉妬心で、いっぱいで。




そんな時、青学に、綾香が転校してきたんだ。


綾香は、転校してきてすぐに人気者になった。何故か、葵ちゃんと越前は好いていないようだったけど。

テニス部に入部して、皆とすぐに仲良くなって。でも、すぐに部活中、葵ちゃんが仕事をしてる姿を見なくなり、綾香が仕事をする姿だけを見る様になった。




そして、噂が流れた。葵ちゃんの良くない、噂。

そして、麻薬で倒れた二人が発見され、誰もが葵ちゃんの仕業だと信じた。だって、噂にその手の噂があったから。

そして、綾香が虐められ始めた。綾香はいつも笑っていたけど、手や腕は傷だらけだった。僕は分かっていた。




それは、嘘だってことぐらい。





葵ちゃんは、凄い、強い。あの雲雀恭弥が兄だと言うのが本当だと信じれるぐらいに。並盛では知らない人は居ないらしい。僕も脅迫されていた青学の男子を助けてあげていた葵ちゃんを見たことがある。兄の雲雀恭弥と同じ様に、トンファーを使って、綺麗に舞っていたのを。

だから、分かっていた。
葵ちゃんが本当に綾香を嫌いで、虐めたなら、あんな怪我だけじゃすまない。


越前に大丈夫だと、笑顔で言って。僕達が名字で呼ぶ様になったら、同じ様に、あだ名呼びをやめて名字呼びにして。だけど、たまに出てくる、懐かしい味のドリンク。
ちゃんと、僕達の為に仕事をしてくれてるってことも、全部、知っていた。


全部、知っていた。
並盛の、ハニーブラウンの髪の男子と頻繁に会って、何かの書類を受けとっていたことも。スーツを着た赤ん坊と真剣に話していたことも。雲雀恭弥と泣きそうになりながらも笑顔で話していたことも。

全部、知っていた。
合同練習の時の、氷帝、立海の、跡部、忍足、幸村と話す時、悲しそうに眉を下げて、3人もつらそうに顔を歪ませ、話していたことも。

そして、嫉妬心で壊れそうな僕が居た。なんで、僕を頼ってはくれないの。その泣きそうな笑顔で僕に話して。僕に縋り付いてよ。もっと苦しんだら僕にも向けてくれるかい?


大会が過ぎたら、暴力が始まった。テニス部の皆も。他の皆も。唯一の味方だった越前はアメリカに渡ってしまって。だけど、それを知っていたらしい葵ちゃんは、前と変わらず毅然としていたし、並盛の子達と会う頻度は増えていた。






そして、葵ちゃんが屋上から飛び降りた。今まで嫉妬で狂いそうだった僕は、なんだか心が軽くなった気がした。

だって、もう誰も葵ちゃんに笑いかけて貰えないんだ!僕だけじゃない!あの悲痛な顔も!苦しみに染まった泣きそうな笑顔も!誰も見ない!僕だけが見れない訳じゃない!!


そして、暫くして、昏睡中だったらしい葵ちゃんは、亡くなった。

心はもっと軽くなった。
彼女が、誰のものでも無くなったと思うと、なんだか今までの虚しさや嫉妬心は全て無くなったと感じたのだ。




葬式に、レギュラーの皆で出席した。皆、悪態をついていて。



僕は涙も何故かでなくて。






葬式に駆け付けた、アメリカに渡っていたはずの越前はお父さんの南次郎さんと一緒に来ていた。越前は、凄く慌てていて。暫く、お香の所で立っていたと思えば、すぐに僕達の所に向かってきて、綾香の衿元を握った。



『お前っ、お前のせいで……葵が、葵が!』



いつも、クールだった越前は、凄く必死で、涙を流しながら、綾香を今にも殴りそうだったけど、



『リョーマ、止めなよ』

『…恭、弥さん、』

『こんな奴殴たって変わらない』

『で、も』

『リョーマ、止めて』

『…ツナ!でもっ』

『…獄寺君、リョーマをシャマルんとこ連れてって。話が済んだら病院行ってきてくれる?』

『はい、沢田さん。…ほら、リョーマ行くぜ?』

『いや、だっ、隼人!嫌だッ』





雲雀恭弥に、ハニーブラウンの髪の子、そして、並盛で不良として有名な獄寺隼人。越前は獄寺隼人に引っ張られながら、泣き叫んだ。その背中を摩っていた、長身の黒髪の男子は、野球で有名な山本武だった、確か。そのあと、ハニーブラウンと、雲雀恭弥に近付いてきた、眼帯をつけた変な髪型の女子は、確か、黒曜の制服を着ていた。





暫くして、獄寺隼人に連れられ、越前は車に乗って行った。綾香に、




『さっきは急にすいませんでした。ちょっと、混乱してて、自我忘れてたんで。怪我ないっスか?ま、近々会うことになるんでそん時はよろしくっス』




そう笑顔で告げて、そのあと、二度と会うことは無かった。笑顔で言ったのに、どこか、ひやりとしたものがあったのは、殺気があったからだと、今なら分かる。

近々、と言う意味が分からなく、越前も並盛の人達とも、二度と会うことがないまま、10年が過ぎ、今はあの時の越前の涙が残ったあの笑顔が何故かしこりとして残っている。







…雲雀葵。
篠原葵を親友だと言ったその人。
雲雀恭弥と同じ名字。雲雀恭弥の家族なのか。そしたら、葵ちゃんとも家族で。




分からない。僕には、分からない。



あの時、嫉妬心だけで葵ちゃんを傷つけた、自分も、分からない。








まだ君を好きだった

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