「ちらし寿司ってやっぱり美味しいですよね」
雲雀さんは、頬を緩ませ、笑った。それは、--いや、雲雀さんの全てが、葵ちゃんにそっくりで、なぜ、葵ちゃんがここに居ないんだろう、と思ってしまい、一生懸命頭の中からその考えを消した、。
俺は、綾香の、ラルツォーネファミリーの一員なんだから。
綾香を、ボスを、第一に考えなくちゃ。
「てか、雲雀さんは、忍足病院にお兄さんと、とさっき言ってたね」
「ええ。兄も医者で、一緒に派遣されました」
「おい、隆。確か、お前友達ん中に忍足病院勤務の人が居ただろう?」
「ああ、居るよ」
「本当ですか?もしかしたら、会えるかもしれないわ。お名前を伺ってもいいですか?」
「あ、たぶん。
不二、周助、です。薬剤師で」
「不二、さん。覚えておきますね」
「あれかい?依頼とか、で?」
「はい。
人手不足と新人教育の為に、忍足病院の息子さんから依頼されました」
「え、忍足君から?」
そう、俺が聞くと、雲雀さんは、眉をひそめた。
何故、俺が彼を知っているのか。と、それは物語っているようだった。
「え、忍足侑士、ですよね?」
「え、ええ」
「元、氷帝テニス部の」
そう言うと、
―かたん。
雲雀さんは持っていたお箸を落とした。
「あ、あら、やだ!すいませんっ」
「いいってことよ!ほら、新しいのだ」
「ありがとうございます」
親父から新しいお箸をもらうと、自分を落ち着かせる為なのか、雲雀さんはゆっくりと、息をはいて、言った。
「もう一度、言って、もらえますか?」
「え、あ、元氷帝テニス部?」
「・・・うそ、なんで」
そう言った雲雀さんは、俯く。
流した長い綺麗な黒髪が、さあ、と頬をながれる。
ぽた、ぽた、とカウンターの机に水滴がおちる。
「侑士、テニス部だったなら、なんで、」
そして、俺は雲雀さんの言おうとしてることが、頭に響いた。きっと、きっと、
「葵・・・の、ことっ、教えてくれなかった、のっ」
雲雀さんの涙と泣き顔は、どう見ても葵ちゃんとダブって見えてしまい、俺はどうしたらいいか、分からなかった。
俺はまだ知らない