「えーと…どなた、ですか?」
不思議そうに首を傾げる。あの頃、あの時浮かべていた笑みと一緒。やめてやめてやめて
やめてよ。あの日を思い出すからやめて
「綾香は気にしなくていいよ。…関係のない人達だから」
不二先輩がそう言う。
「もう、その話は終わりでいいだろうか?知らないものは知らないんだ」
手塚部長もそう言う。
----------ああ、まだ騙されてる
「…葵、もう帰ろう?転校先を調べた方が早いし、」
「‥あの子のことだから、いつもみたいにトラブルを起こしたのかもしれない、からね」
そう凪と会話する。
私は、そう、あなた達を騙す。
「…どういうことだ?」
「えっと……」
「俺は、乾、乾貞治だ。証券マンをやっている」
「乾、さん、ですね。どういうこと、というのは?」
「…その子が、その子のことだから、」
「“なにかトラブルを起こしたのかもしれないしね”?」
「…ああ」
「…あの子は、少し変わっていて‥」
「……前のところでもあったから」
凪がアドリブで合わせてくれる。そう言った時、凪が拳を握るのが見えた。
----ごめんね、嘘に突き合わせて。
私は被っている帽子を目深く被る。(この人達が私を分からないのは、このせいと言うのもあるかもしれない)
「…じゃあ、帰ろう?凪」
「うん、葵」
「…、待ってくれないか」
そう手塚部長が私達を引き止める。
「…すまない、俺達はその子を知ってるんだ」
「っ、先輩っ!」
「桃城、いいんだ。この人達だって知らないままではいけないだろう。
…篠原葵は、確かにこの学校に居て、テニス部のマネージャーだった」
「、そうなんですかっ?!」
少し、喜びを混ぜて、
今は騙されてあげる
そして告げられる偽り