Episode5 [ 5/12 ]

仁王に連れられて、仁王のお姉さんが待っているという場所に向かう。徐々に騒がしくなるフェンスの外。その騒がしいのが女子の声で作られているものだから、少しいらついてくる。仁王も嫌そうに顔を歪めた。そして、仁王のお姉さんが待っている場所の近くに来るとそれらしき女の人と立海高の女子が対峙している。そして、その間、女の人寄りに立つ人を見て、俺は一瞬思考が停止しそうになった。…な、んで居るの?そうまずは聞きたかったけど、その前にこの高校生組を追い払わないことには始まらない。


「…君達はそこで何をしているんだい?」


咄嗟に出た声は自分でも分かった。冷たい。びくりと反応した高校生組。同じぐらい反応したのは、なまえさん。まさか、なまえさんにこんな声を聞かせる羽目になるとは思いもしなかった。すると、高校生の一人が口を開いた。おどおどしているが、よくよく見れば制服の襟の所に色の付いたピンが見えた。3人とも全員色は違えど、ピンの頭に付いた装飾品は同じ。テニス部ファンクラブの会員バッチだ。…色は俺達レギュラーの数とプラス1色。つまり、仁王のファンクラブなら銀色、俺のファンクラブなら藍色ということ。色によって誰のクラブか一目で分かるという意味の分からないファンクラブの仕組みだ。


「…あの、この方々が、部外者だとは分かったのですが、見学にはルールがありまして」
「…ルールって、君達ファンクラブの中のルールでしょ」


はい、と頷いた3人。まあ、そのルールがあるからこそ俺達は、ミーハーな奴らに邪魔されないんだけど。さて。どうやって懲らしめ様かな、と思っていれば、(女子だし、でもなまえさんに迷惑をかけたのには変わりないしな)


「だからさ、私達、別にファンじゃないのよ」
「ですが、見学は、」
「あの、えっと、」


少し挙動不審になりながらも、高校生組と仁王のお姉さんらしき人に挟まれたなまえさんは、発言をしようとする。はた、と双方は止まり、なまえさんを見る。当然、俺と仁王も。すると、


「麻友美は、仁王麻友美って言って、そこの銀髪さんのお姉さんなんです」


それだけ言って、あとはおどおどとしてから仁王のお姉さんの後ろに隠れてしまった。そんななまえさんも可愛いなあ。そういえば、なまえさんは人見知りだと言っていたなあ。…初めて会った時のなまえさんの対応も凄く可愛かったけど。


「え、はい?」
「うそ…」


高校生組はそれだけ言うと、こちら正確には仁王を見る。すると仁王は面倒くさそうにため息をついてから、俺の姉貴じゃから考慮してくれんかと言った。高校生組は戸惑いながらも、仁王の頼む、にキたのか小走りに失礼しますと言ってから走って行ってしまった。


「で?あんたが幸村?」
「え、はい。そうです。部長の幸村です」
「で、この子の彼氏でいいのね?」
「ちょ、麻友美、」


は?と聞き返す前に仁王のお姉さんの後ろから出て来たなまえさんが、顔を赤くしながら仁王のお姉さんにやめてよと言った。…可愛い。口が緩みそうになって、きゅ、と一文字にしてから、いつもの表情に戻す。


「はい。お付き合いしてます」
「…ふーん。…私、この子の親友なの。下手に、傷付けたら許さないから」


ぎん、と睨みつけて仁王のお姉さんは言った。仁王がはあ、と大きくため息をつくのを感じた。ちらりと仁王のお姉さんの隣に立つなまえさんを見た。目が合うと、目を一回逸らしてから、ゆっくりとまた俺を見て、照れ臭そうに笑ってくれた。


「…精市君のテニス、見に来たの」


麻友美は違うみたいだけど、と付け加えながら、フェンスに近寄ったなまえさん。フェンスを握ると、かしゃん、と音を鳴らしながらフェンスが揺れた。俺も近寄る。なまえさんに笑いかけながらありがとうと言えば、嬉しそうにまたふわりと笑った。
なまえさんの格好と言えば、ボレロとふわふわのスカート。茶色の可愛い系の革靴。それに合わせた様なリュック。どちらかと言えば可愛い感じで、隣に立つ仁王のお姉さんは綺麗って感じだ。…だけど、なまえさんの方が光って見える。キラキラと。


「…ねえ、雅治この近くでコートがもっとちゃんと見れる所ってないの?」
「…そうじゃのぅ、幸村?」
「それなら観覧席を使えばいいよ」


観覧席は、応援に来るファンクラブの女子も居るけど、ここで見るよりはしっかりと見えるだろう。じゃあ案内しなさいよと仁王のお姉さんは仁王に笑いかける。渋々と言った具合に頷いた仁王。すると、精市君と名前を呼ばれた。なに、と聞きながらなまえさんを見れば、表情は少し不安そうだ。何かを言おうとして口を開いたけど、目を泳がせながら閉じてしまった。どうしたの、ともう一度聞けば、眉は下がっていて、頬は赤い。そんな表情で俺を見上げてきた。っ、そんな表情は、こんな誰が見ているか分からない場所で、しないで、欲しい。そう思っていれば、もう一度名前を呼ばれた。


「どうしたの?」
「…迷惑、じゃなかった?」
「?なんで?」
「…だって、いきなり、来ちゃって…」
「まさか」


俺がそう言うと、確かになまえさんは嬉しそうに笑って、今日は何をするの、と聞いてきた。素直に基礎練や個人の強化練習、そして蓮二が考えたオーダーでのレギュラーでの試合を何試合かすると、伝えれば。


「っ、」


息を呑む程の。今まで見た中で、俺が知ってる、なまえさんの一番綺麗な笑顔。精市君の試合もテニスも初めて。そう微笑んだ彼女は、やっぱり大人で。4歳という歳の差がやっぱり冷たく思い知らされる。1週間しか経っていない。彼女と付き合って。こんな気持ちをするなんて、思っていなかった。今までの恋愛は、俺にとってごっこでしかないものであり、まだ、ちゃんとした恋愛なんてしたことない俺にとって。その初めての恋愛の相手がなまえさんだと言うことに幸せを感じるとともに、不安にもなる。1週間しか経っていない。知り合ってからは、1ヶ月ぐらいだ。それなのに、まだなまえさんのことは知らないことばかりなのに。何故か。彼女を愛してると、断言出来る。まだ高校生の俺が愛しているだなんて早いかもしれないけど、


「どうしたの?」


ふわりと髪の裾を靡かせながら、なまえさんは聞いてきた。そんななまえさんになんでもないよと笑ってみせた。

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