Episode4 [ 4/12 ]


麻友美に引っ張られる様に附属高校の門をくぐった。もう放課後みたいで、ちらほらと生徒達が見える。私も2年前はあの制服着てたなあとか考える。そう、私は附属の出身で、ちなみに麻友美もそう。麻友美とは高校からの付き合いで、一番仲良い友達なんだ。制服はやっぱり変わらずに緑のブレザー。よく麻友美や他の友達と東京の端っこまで出て遊んだなあ、と制服を見てれば、麻友美はどんどん進む。


「でも、麻友美。私、テニス部の部室何処だか分からないよ?」


そう前を進む麻友美に言えば、またため息をつかれた。でも、麻友美のため息は心底呆れた時には出ないから、これはまたかって思っただけだとは思う。高校時代は知ってる中だけで動いていられたから、部室棟は分かっても、テニス部の部室はどこだかさっぱり。すると、こっちなんだよと言った。すごいなあ、と思いつつ、


「麻友美、知ってるの?」
「…母校だしね。それに、弟居るって言ったっしょ?」
「うん」
「高校生の方がテニス部所属なんだよ」


そう言った麻友美は、少し嫌そうに眉を潜めた。どうしたんだろう。そう思って前を見れば、…………うわあ。あれが麻友美の表情の原因かな?…私もなんだか嫌だなあ、あそこ。

前には、テニスコートとそこに群が…いやいや、そんなこと言っちゃだめだ。えっと、集まる?囲む?って感じに女の子達がいっぱい。キャーキャー言ってて若いなあとか考えて、はっと気付く。そういえば、精市君はまだ16歳でしょ?でも、私、ちゃんと20歳になっちゃってるじゃないか。…ちゃんと4歳差だよ…。精市君はそれでもいいとか言ってくれたけど、やっぱり、気になる。周りに居るあの女の子達は、まだ16歳だったり、15歳だったりでしょ?最年長でも18歳。…精市君は、絶対にしないって思うけど、あの女の子達に誘惑とかされたら…?って、何考えてるの!まだ付き合って1週間ぐらいだよ!まだ一ヶ月経ってないし!


「…練習中は女の子達あんなに煩くないみたいよ」
「そうなの?」
「あれは、部室に来る部員、特にレギュラーを待ってる人達。まあ、レギュラーはそれを知ってるから、HR終わったらダッシュで来るって言ってたけどね」


大変なんだねえと言えば、あんたは呑気ねと言われた。呑気、なのかな?全然自覚はないんだけど。でも、特にレギュラー、ってことは、ダッシュしてるんだよね、精市君も。…うわあ、なんか、毎日大変そう。
そう思ってれば、麻友美はコートの周りに張り巡らせられたフェンスに近付き、目を凝らす。…麻友美は目付きが少し悪いから、目を凝らすと正直言って怖い。でも気は強いけど、喧嘩とかは出来ないし、普通の女の子。前そうやって麻友美のお友達の男子に説明してあげたら後から麻友美に、すごく怖いって言っておいてと言われた。なんでも告白されたみたい。麻友美は彼氏さんが居るからそういうのは困るからやめて欲しいっていつも言ってる。


「あ、居た居た!比呂士君!」
「おや、麻友美さんではありませんか」


ひろしくん、と麻友美に呼ばれた人は眼鏡をかけた茶色の髪の人で、笑顔で麻友美に近寄った。眼鏡が光に反射して全然目が見えないけど。


「久しぶりー。たまには家に来てよー」
「ありがとうございます。では近い内に。そういえば、仁王君に?」
「あー、うん。よろしくー」


そう言うと、では、と軽く麻友美に会釈した後に、後ろに隠れていた私に気が付いたのか私にも会釈をして失礼しますと言ってどこかに言ってしまった。礼儀正しい人だなあって見てると、麻友美が柳生比呂士君、と名前を言った。…さっきの人の名前かな?


「私の弟のダブルスパートナーよ。紳士って呼ばれてる通り、礼儀正しいいい子よ」
「へえー。…麻友美の弟君て何年生?」
「2年生よ」
「え、じゃあ、柳生君も2年生?」
「中学の頃からずっとあんな感じよ」


しっかりしすぎてるなあと感心に思っていたら、柳生君が銀髪の人を連れて帰ってきた。嫌そうな顔をしてる。


「…なんじゃ、何しにきたんじゃ」
「比呂士君、ありがとう。…雅治、姉に向かって失礼じゃない?」
「…ぐ。…すまん」
「分かれば、いいのよ。それでね、あんた達の部長は同い年でしょ、あんたと」
「幸村君のことですか?」
「へえ。命知らずの馬鹿は幸村って言うんだー」
「ま、麻友美!」


い、いいい命知らずの馬鹿って!精市君になんてこと!麻友美の名前を呼べば、おやさっきのと柳生君はにこやかに笑顔を返してくれた。自分で言うのもあれだけど、人見知りが激しいから、どうもと小さく会釈するだけになってしまったけど。


「ゆ、幸村に恨みかなんかあるんか?」
「恨みー?あるわよー沢山」


そう言って麻友美はふふふっと笑った。…ちょっと怖いんだけど…麻友美どうしちゃった訳…?すると、麻友美の弟君はびくつきながら、


「ほなら、幸村呼んでくればええんじゃろっ?柳生、行くぜよ」
「え、あ、はい。…では、失礼致します」


弟君は精市君を呼んでくると言って逃げる様に去って行った。柳生君も私達に笑顔でそう言うと弟君と一緒にどこかへ行ってしまった。しばらく弟君の怯え様と麻友美の豹変様に驚き、呆然としていたけど、はっとなって麻友美に聞いた。


「い、のち知らずの馬鹿ってどういうこと?精市君がなんで?」
「なまえは知らなくてもいいよ」
「良くないよ!私の彼氏だよ!」


そう声を張り上げて言えば、麻友美が目を丸くした。そして、そんな麻友美に私自身、自分が声を張り上げてまであんなことを言ってしまったことに恥ずかしくなった。顔はきっと、赤い。こんな顔、麻友美にだって見せれない。きゅっと口を一文字に結び、赤くなっているだろう顔を俯かせた。恥ずかしい。


「…なんか、ずっと大切にしてたものを、横から知らない誰かに取られちゃった感じ、かな」
「…どういう、こと?」
「…やっぱり、なんでもない」


ぽつりと言った麻友美によく分からなくて顔を上げて聞けば、麻友美は珍しく私から顔を逸らしてなんでもないと言った。そして、恥ずかしいと言った。よく見れば、耳が少し赤い。こんな麻友美、彼氏さんの前か、由利(柳由利って言う教育学部の子で私達3人は昔から仲がいい)ちゃんと私と…それぐらいの人達にしか絶対に見せない。
そんなに、心配して、大切に思ってくれていたなんて、思いもしなかった。なんだか私も少し恥ずかしくなったけど、やっぱり嬉しくて。麻友美、と笑顔で名前を呼んだ。なあに、と言いながら麻友美が振り向く、前に後ろから声がかかった。



「あの、すいません」
「はい?…えっと…?」


声をかけてきたのは高校生の女の子達だ。少し不機嫌みたいな顔をしてる。3人の女の子達が私達に話し掛けてきたけど、後ろの女の子達も私達を見ている。なあに、と麻友美が私の後ろから言った。女の子達は、失礼ですけどと言って、


「ルールを知らないんですか?」
「はい?」


突然ルールだなんだと言われてもよく分からない。すると麻友美も同じの様で聞き返していた。女の子達は、ルールですよともう一度繰り返した。


「レギュラーの皆さんになんで話し掛けているんですか?日常会話ならまだしも、部活前の彼等に話し掛けるのは禁止ですよ?」
「それに、決められた範囲外のフェンスにも近寄ってはいけないはずなのですが」


ええええ。なにそのよく分からないルール。と言うより一体何のためのルールなの、と思っていれば、麻友美はふっと軽く笑った。え。いいの、その笑い方絶対喧嘩を売る様な笑い方だよね、と思いつつ麻友美を見る。大丈夫なの、と心配になった。すると、


「…君達はそこで何をしているんだい?」


知っていて、知らない声が聞こえた。私の知っている声はもっと柔らかくて、こんな冷たい声は聞いたことがない。ゆっくりと振り向けば、立海のジャージを肩にかけた精市が不機嫌そうな(でもさっきの麻友美に対する不機嫌とはまた違った種類の不機嫌みたいだ)弟君の隣で不敵に笑った。

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