Episode3 [ 3/12 ]

まさか、噂になっているとは思っていなかった。でもまさか自分が告白を断る時に言っていたとは予想外だった。ていうか、そんなに舞い上がってたのか…なんか恥ずかしい。はあ、とため息をつけばまだ集合の10分前だと言うのにきっちりと靴紐を結び始めた弦一郎が、どうかしたのかと聞いてきた。


「なんでもないよ」
「?」


不思議そうな表情を弦一郎はしたが、まあ教える様な理由もないし、弦一郎は俺が言わなくても根掘り葉掘り聞く様な奴じゃないし。デリカシーって言葉はカタカナだから知ってるか分からないけど、たぶん意思尊重の言葉は知ってるだろう。意味違うけどね。まあ、気遣いはあるって話だ。そう、こいつらと違って。


「幸村ぶちょー!」
「幸村君ー!」
「…なんだい?」


ランニング50周を終えてきたのか、少し顔を赤くしながら赤也は声をかけてきた。丸井も一緒だ。聞かれる内容は分かっているが、とりあえずそう聞いてみれば、赤也は嬉しそうにはいっスと返事をして、あのーと俺の表情を伺う様にする。だから、分かりやすいって。すると、隣に居た蓮二がノートを開く。だから、データにとるなよ。


「幸村先輩の彼女さんって年下っスか?」
「ん?聞こえないな?なんて言ったの?」
「…噂と言うより、赤也の隣の女子が言っていただけだから、まだ広まってはいないぞ」


だから、と蓮二を見る。これから広まるんでしょと言えば、よく分かっているな、と蓮二は確率を口にした。ちっ。97%って広まらない確率は3%しかない訳。いや、別に隠し通そうとした訳じゃないし、出来ると思った訳でもない。ただ、……なまえさんに迷惑をかけたくなかったから。


「つーか、幸村君に彼女って意外だなー」
「…意外?」


丸井がいつものガムを膨らましながらそう言うので、気になって聞いてみる。すると、そうっすねとか赤也も同意。隣の蓮二は何も言わないが、それはデータをとっているから話さないだけで恐らくは同じ意見だろう。俺が聞き返す様にすると、丸井はパンっと膨らませたガムを割ってしまった。…顔にガムがへばりついてるし。早く取れよ。


「だって、部長、彼女はしばらく要らないって言ってたじゃないっすか」
「ああ…1年以上前の話だろ?」
「でも、部長に彼女にしたいって思わせた人、見てみたいっすね!」


にこにこと笑いながら赤也は言った。え。お前達に会わせる気は0なんだけど。なんでなまえさんをお前達なんかに会わせなきゃいけない訳。すると隣の蓮二もノートから顔を上げて、赤也に同じくなどと言いはじめる。終いには、顔にへばりついたガムを取り終えた丸井までもが同じことを言う。ええええ。いい加減にしろよ。名前だって言うつもりなんかないし。ましてや会わせるつもりもないし。なまえさんは優しいから会ってくれるとは思うけど、そんなの俺が許さない。絶対に。すると、詐欺師コンビがこちらに歩いてくるのが分かる。仁王と柳生が来たなら少しはマシになるかな?仁王はあれで彼女大切にする奴だし、柳生はデリカシーは勿論、個人意思尊重だし。


「何を話していらっしゃるんですか?」
「ああ、柳生。精市の彼女の話なんだ」
「幸村君、彼女さんがいらしたんですね!知りませんでした!」
「それが俺達も今日知ったんスよー」
「?では、最近、ですか?とにかく、幸村君、おめでとうございます。さぞかし素敵な方なのでしょうね」


にっこりと笑ってそう言った柳生は、厭味の一つも皮肉のかけらも少し足りとも入れることのない台詞をさらりと言ってみせた。そうだよ、これだよ!根掘り葉掘りするんじゃなくて!へえ、彼女出来たんだ、へえ、おめでとう、ぐらいでいいんだよ!なんでこんなに寄ってたかって…!そう思っていると、仁王が声をかけてきた。


「のぅ、幸村…」
「なんだい?仁王、って、お前顔色悪いよ?」
「…ああ、それはのぅ、」


そう言うと仁王ははあ、とため息をして隣に立つ柳生を見る。代わりに言えとでも言った視線なのだろう。柳生はため息をついたが、仕方ないと言った感じで、実はですね、と前置きをしてから言った。


「仁王君のお姉さんの麻友美さんがたった今、お友達と来られているのですが、」
「そういや、仁王の姉さんって大学生、だったかよぃ?」
「ああ、そうだな。大学2年。立海大文学部だ」
「…蓮二、程々にしないと訴えられるぞ」
「気にするな弦一郎」


仁王のお姉さん、か。会ったことはないけど、今の仁王を見る限り、仁王に対しては強そうだな。蓮二に注意した弦一郎は若干呆れたものを見る様な目になっている。…本当に程々にしないと俺が訴える。


「それで、仁王先輩のお姉さんがどうかしたんスか?」
「あ、はい。実は、テニス部の部長を出して、とおっしゃっていて…」
「俺?」
「はい。幸村君の名前を出してはいらっしゃらないんですが、部長、と言うからには幸村君かと…」


困った様に苦笑いをする柳生に首を傾げる。どういうことなんだろう。仁王はすまんのと小さく謝ってから、こっちじゃと案内を始めるから拒否は出来ないだろう。仮にも友人のお姉さんだし。


「いいよ、行こうか」


肩に羽織っているジャージを一度落ちないかどうか確認する様に握り、そう笑顔で俺は告げた。……なんか、嫌な予感がする。

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