Episode2 [ 2/12 ]

今日の授業を終えてから、親友の麻友美と敷地内のカフェテリアに入って3時のおやつを楽しんでいた。私は。私は、と言うのは、目の前に座る麻友美が私を問い質している真っ最中で楽しんでいるかは、分からないからで。かと言って現状把握は出来ているが私も存分に混乱していた。


「なまえ!詳しい話を聞かせなさい!」


どん、ばん!と音を立てて麻友美は言った。ちなみに、どんと言うのが麻友美がテーブルを叩いた音で、ばん、はメニュー立てとかが倒れた音。どうしたの落ち着いてと慌てて言って麻友美を座らせる。座ってくれた麻友美は紅茶を一口飲むと、なまえ、と言った。


「なあに?」
「なあに?じゃないわよ。可愛くすれば許すと思ってるの?」
「えっと…麻友美?どうかしたの?」


そう聞けば、はあ、とあからさまにため息をついた。そして、麻友美は手元にあるレアチーズケーキをフォークで切りながら言った。


「朝、言ったじゃない。あんた彼氏出来たんでしょ」


そう言われて私は唐突に体温の上昇を感じた。あつい。多分、私の顔今真っ赤だ。すると、目の前の麻友美はにたあ、と悪戯っ子みたいに笑う。ああ、もう。いくら親友だからって言って、彼氏が出来た、だなんて言わなきゃよかった。そう思っていると、で?と麻友美は聞いてきた。


「どこの誰?私、知ってる?」
「…あー、知ってるかもしれないけど、会ったことはないと思う」
「え?誰よ。教育学部の長谷部って人?」
「ううん。違うよ」


教育学部の長谷部君って言えば、すごく格好よくて、すごくモテるって話だ。まさか。そんな人と私が付き合える訳がない、と考えて急に落ち込みたくなった。そうだよ、彼だってすごく格好いいから、すごくモテるだろう。私なんかが彼女でいいのかな。そう考えていれば、目の前で手がぶんぶんと振られているのに気が付いた。はっとなって見れば、ふふと笑った麻友美が私を見ていた。…うわあ。女子の私からしても、すごく綺麗。


「で?どこの誰なの?年上?同い年?」
「…う、ううん。年下」
「はあ?!」


年下だと教えれば、またばん、とテーブルを叩いて麻友美は立ち上がった。慌てて座らせて、麻友美を見れば、ぶつぶつなんか言ってる。…こ、怖い。


「ま、麻友美?」
「…いくつ下?何年?1年」
「えっと、2年」
「……は?遅生まれってこと?」


不思議そうな顔をして首を傾げた麻友美。2年と言って遅生まれと言ったのは、私も麻友美も大学2年生だから。でも、私はまさか大学の学年で言っていると思わなくて。(だって浪人の人とか居るから学年で歳が決まる訳じゃないしね)急いで、違うよと否定すれば、麻友美は一気に不機嫌そうな顔をした。


「高校生ってこと?」
「う、うん。高2」
「…っち。最近はマセたガキが多くなったとは思ってたけど」
「ま、麻友美?」


舌打ちをしていきなり口調が悪くなった麻友美は、もうすぐ方言で話し出すだろう。そうするとちょっとだけだが、困る。たまによくの分からない言い回しが出て来るからだ。ちなみに麻友美は小さい頃九州の方に居たらしく、弟君2人はバリバリの九州訛りだそうで。


「…私知ってるって言ったね」
「う、うん」
「ということは、附属?」
「うん」


附属、と言うのは私が通っている立海大学の附属高校のことで、その下には中学もある。そういえば、まさかなまえを年下に取られるとは、とかなんとか呟いた麻友美ははあ、とため息をした。


「な、なんかごめんねっ」
「なんで?なまえは謝る必要ないじゃない」
「う、うん」
「まあ、年下でも、あんたに彼氏出来たのはすごく嬉しいよ」
「…麻友美。ありがとう」


いいってことよとふわりと綺麗に笑った麻友美は、じゃあ今日は私の奢りねと言って、そのかわり彼について話してと言ってきた。…まあ、恋人をずっと作ることの無かった私を応援してくれたのは、麻友美だし。

正直言って、私は恋人は要らないって考えだった。高校生の頃、先輩1人、その先輩と別れてから同い年で1人と付き合ったけど、しっくり来なかった。皆が話している様なドキドキを感じなかったのだ。まあ、それでもいいかなって思った。告白されてもドキドキしないし。本当に好きだって人と出会ったことないし。だから、ずっと独身でもいいかなって思っていたけど、麻友美はそれは全否定だった。麻友美が言うには、私は可愛いらしく、勿体ないらしい。麻友美が協力すると言い出した時は、た親友が自分に積極的に関わってくれるという、協力って言うのが嬉しかったから、ありがとうと言ったけど。でも、麻友美は無理矢理私をコンパなどに連れていったり、とかそういうのはしなかった。麻友美自身に彼氏が居ることも理由だろうけど、彼女曰く。恋人作りというより、私に恋をしてほしいらしい。本当の恋をしてないくせに諦めるな、と。


「じゃあ、高等部で、……有名なの?」
「うん、たぶん」
「たぶん?…ああ、なまえは噂とかそういうの疎いもんね」
「うん。私もあんまりよく知らないんだけど、テニス部の部長さんをやってるんだって」
「テニス部?」
「うん」


テニス部って言ったら今年夏の大会2連覇を狙う強豪の部活、らしい。これは同じ授業の子が教えてくれたんだけど。すると、麻友美は、急に立ち上がり、鞄を持った。どうしたの、と聞けば、


「テニス部、知らないんでしょ?あんたの彼氏の顔拝みに行くついでに、あんたはテニス部がどんなのか見てみなよ」
「え、でも、迷惑に」
「どうせ、テニス部はギャラリー多いから大丈夫よ」


とまた綺麗に笑った麻友美は、私の手を引っ張ってカフェを出た。相変わらず、格好いい。すると男子から仁王さん、とか声をかけられている。流石。うっとうしそうにそれを受け流し、ついでに私に近付いてきた変な人(知らない人。たぶん学部も違うと思う)も追い払ってくれた。

迷惑、だなんて言ったけど。本当は精市君のテニスを見ることが出来るかもしれないと思うと心臓バクバクだ。正直、テニス部の部長をやってるって聞いた時はびっくりした。テニスは趣味か何かでやってるんだと思っていたから。それを正直に言えば、今度見せてあげるとふわりと微笑んでくれた精市君は本当に格好よかった。…だんだんと高等部に近付き、心臓が保ちそうにない。ああ、緊張する。

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