Episode10 [ 10/12 ]

ふわりと笑った精市君は、私の両手をきゅっと優しく包み込んだ。今まで緊張とか不安とかで気付かないうちに冷えていたみたいで、私の手は精市君のおかげで少しずつ温かくなっていった。精市君はそのまま私を真っ直ぐ見る。その目は綺麗で、まるで私のことなんで全部お見通しみたいで。彼はくすりと笑ってから、言った。



「なんで、迷惑なの?」
「だって…練習中なのに、こうやって」


そう言えば、馬鹿だなあと言われた。でもそう言った精市君は優しい笑顔をしていた。目元が少しピンクになっていて、綺麗。そして、精市君は私の指先にそっとキスをした。…!?びっくりしすぎて、手を引きそうになったのを、精市君は許さなかった。ぎゅっと、私の手を握りなおした。恥ずかしい。…絶対、私、顔真っ赤だ。…悔しい。私の方が。精市君より年上なのに。



「可愛い彼女が応援してくれてるのに、迷惑がる奴なんてどこに居るんだい?」
「あ、え…じゃあ、」
「俺なんて張り切りすぎてコートにボールが食い込んだんだよ?」



そう言うことだよね、と精市君は振り向きながらノートを持った子に聞く。やっと分かったかと頷いたその子に苦笑してみせた精市君。ね、言ったでしょうとまた私に微笑みかけた。…よかったと私はため息をつきそうになって、気付いた。い、今。精市君、可愛い彼女って言った?…可愛いって私が?ていうか、精市君のチームメイト、皆、居るのに。そう思って精市君を見上げれば、目が合った。びくりと小さく肩を揺らした精市君は、ほんのりと頬をピンクに染めながら、本当に綺麗に、笑った。




「…で、甘ったるい雰囲気出してて悪いけどさ。甘すぎて吐きそうなんだけど」




精市君の後ろから声がかかった。麻由美だ。…そうだよ、ここ、テニス部の部室じゃない。…うわあ、すごく、恥ずかしい…。ふふ、とそんな私を見て精市君はまた綺麗に笑う。なんで?なんで笑うの?そう思いながら見上げれば、さて自己紹介しよう、と精市君はチームメイトに向き直る。私も同じ様にそちらを向いたけど、やっぱり恥ずかしくて、半歩後ろに下がってしみ、きゅっと精市君のジャージの裾を握った。



「ほんっっっとうに不本意なんだけど、皆には特別に紹介してあげるよ。特別だからね?特別だよ?こちら、みょうじなまえさん。俺の彼女」
「…よ、よろしくお願いします」



精市君が紹介してくれてから、頭を小さく下げながらそう言った。



「うっそ!!実在した!!!」



その声に驚いて、握っていた精市君のジャージを強く握り締めてしまう。ふふふ、と笑った精市君は。あ、因みに勿論のこと、私からは精市君の顔は見えない。すると、今さっき声を上げたもじゃもじゃ君は、びくりと肩を揺らしてすごい勢いで、すいっませんした!と謝った。え、なんで謝ったの?そう思って精市君の顔を伺うために少し前に出て見れば、



「ふむ。おおよそ、156cmだな」
「蓮二?訴えるって言ったよね?」
「精市、冗談だぞ」



ノートを持った長身の人が私の身長を言った。え、なんで分かったの?そう不思議に思っていれば精市君がその人に笑いかける。薄く笑みを浮かべてそう返したノートの人に精市君は少し顔を歪ませた。…初めて、見たけど、精市君ってどんな表情してても、格好いい。



「…幸村の彼女っちゅーから、どんな人かと思えば、流石じゃな」
「ね?可愛い奴でしょ?」



麻由美と弟君がそう話していて、なんだろうと首をかしげていれば、今度は精市君がチームメイトさん達を紹介してくれた。真田君なんて律儀に帽子をとっての挨拶だったし、丸井君は可愛い笑顔でグリーンアップルのガムをくれた。桑原君は爽やかな笑みつきだし、柳君は私の大学とかを綺麗な笑顔で聞いてきて。びっくりしたけど教えようとしたら精市君が柳君に笑いかけたら、やれやれと肩を竦めて。それからは何も聞いてこなかった。…なんで?その後、弟君と柳生君。そして。



「切原赤也っす!よろしくっす!」



ぶんぶんと音が出そうな程、握られた手を振られて。…か、可愛い!この子、なんか懐かない猫みたい。そう思っていれば、



「…赤也、走ってくる?そうだな、軽く100周ぐらい」
「え」
「え、なんで走るの?」



そう私が聞けば、ぴしりと周りの空気が固まった。え?なんか私、言ったの?

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