すれ違ってまた | ナノ

▼first contact
サークルの練習が終わったあと、部長に捕まったのが運のつきだった。友人と部長とその彼女な先輩。みんなで盛り上がってしまった。オンラインゲームの話で。みんな見事に合わせや対戦をしたことがあってビックリ。そしてそのまま話に火がついてしまった。結局解散したのはその二時間後。練習が終わったのが8時だったから、10時。…最悪。今日はスーパー行こうと思ってたのに。そう思って電車を降りたのが10時10分。案外大学から近いマンションで良かった。そしてスーパーが閉まるのが10時半だと思いだし、スーパーまで走った。そしてバテバテ。まあ、閉店間際ですっごい安くてラッキーだったけど。そして、自分のマンションに帰り、部屋の一歩手前で私は立ち止まっている。


「だ、誰やろか、この人」


めっちゃイケメンやけど。私の部屋、307号室の前で人が倒れていた。男の人で、私と同じかちょい上の。顔が赤いからお酒かなとは思うけど、どうしようか。男の人は黒髪短髪のイケメンさん。そして私はお腹が空いていて今すぐ部屋に入りたいところ。酔っ払いだし、放置しようかと思うが、私のマンションはセキュリティ万全で住人じゃない人はマンション内には入れない。まあ、住人さんが中から開けてあげたりで入ることは出来るけど。ふと時計を見る。10時45分。スーパーを出て歩いてきたから結構時間的にヤバい。結局スーパーには30分まで居たんだけど、アイスが溶ける!それにマンションの住人さんならこの階か一個上か下の人だ。それに夏だぞ?冬じゃ凍死。夏の夜なら…熱中症とか?とりあえず身体には悪い。私だって医者の卵だ!酔っ払いでも世話出来なきゃ!それに、私相手に酔っ払ってたと言ったって、こんな格好いい人が、ねえ。よし。アイスも溶けるし、早よ部屋に入ろう。

なんとかその男の人を部屋まで入れてソファーに寝かせた。耳に五輪カラーのピアス。シルバーのネックレスは外してあげた。そのままテーブルに置いた水のペットボトルの隣に置き、私は台所に遅めの夕食を作りに。明日は大学は午後からだし、ちょっとのんびりしたって大丈夫だよね、と思いつつ。野菜とカレー粉を取り出した。さて、作りますか。




一応男の人用にミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、テーブルに私の夜ご飯ん置いた。ソファとセットで買ったこのテーブルは使い勝手かいいし気に入ってるもの。カーペットに座り込み、テレビをつけて音量を小さくした。チャンネルを回しながら、小さくいただきますをして味噌汁に口をつけた。いくら夜遅くと言っても、お腹空いてるし、がっつりと食事は取りたいから仕方ない。と、自分に言い訳をしながら、カレー風味の野菜炒めを頬張った。…そういえば、こういう匂いが強いのって酔ってる時に嗅いでも大丈夫なのだろうか?そう思いながらも作ってしまったものは仕方が無いし、お腹が空いたし。仕方ないって。とりあえずこのバラエティの人なんなん?と、大阪が長いというのにまだ上手く話せない関西弁を呟いてみせた。テレビの中のバラエティーには最近人気者のお笑い芸人がコントをしていた。あいにくだけど、私の好きなお笑い芸人はマイナーであまりテレビに出てこない。…面白いのに。


「…あんま面白くない」
「俺もそう思う」
「ですよね」
「ああ」


味噌汁をもう一口と飲んでから、気が付いた。はっとなってソファを見ればピアスの男の人が上半身を起き上がらせて頭をがしがしと掻いていた。水のペットボトルを差し出せばおおきにと言って男の人は受け取った。キャップを開けて一口。その動作を見届けてから声をかけた。


「大丈夫ですか?」
「え?…お前誰?え、アフター?」


格好いい顔をしかめながらも男の人は私を見た。…なんかちゃうよね、この反応。ちゅーか、感謝される立場であって。あくまでも、私は助けてあげたんだから、ね。って、アフター?


「え?私、大学生でそんな水商売やってないんですけど…その前に、そんな風に見えるんですか…うわあ」
「え、自分、俺ん客やないん?」
「は?」
「は?」


寝ぼけた目で自分を指差した男の人。ええええ。この人、俺ん客って…ホスト?!


「あの、話を整理しましょか、ね?」
「…頼むわ」
「はい。私はこの部屋に住んでいるもので、今日サークルから帰ってきたらあなたが部屋の前で倒れてたんで、一応放っておくのはあれだったんで」
「…ふーん。これ、うまそうやな」


私が説明をすると、男の人は興味なさそうに返事をした。いやいや、あんたが頼んだんだからね?すると、男の人はいつの間にか箸を持っていて、野菜炒めを一口。…自由すぎるやろ、この人…。なんなん、ほんま。食べてから、少し笑って旨いとか言うから、少し照れてお礼を言ってしまった。…さっきからずっと無表情やったから、なんか怖かったけど、こうやって笑うとすごい美形…うん。


「あの、私も事情っていうか…」
「…バイトしてたら、いつも以上に酒飲んでもうて、たぶん家ん前で寝てもうた」
「…え?家ん前?」


そう聞くと、男の人はこのマンションの名前を言って、3階やろと言ってみせた。え、なんで分かったの?


「このマンション、階ごとに間取りがちょっとずつちゃうからな」


当たり前の様に言ってから男の人はもう一口とまた食べた。…お酒いつも以上に飲んだってなんちゅーバイトしてるんですか、あなた。ていうか、酔ってたんよね?こんな風に食べて大丈夫なんかな、とか思っていれば、


「なあ、ビールない?」
「え、ビールは…」
「別に酒ならなんでもええけど」
「なら、ドイツワインとか日本酒あたりが」
「…お前おかしない?ビールないくせして」
「私、ビール嫌いなんで。…ちゅーか、何さっきからリラックスしてるんですか!」


そう言えば、笑って迎え酒、とか言うから、なんかちゃうよって思ってしまった。本当、なんなんこの人。
110922
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