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爆音と粉じん、悲鳴、断末魔、嫌な物全部一緒くたにごたまぜにミキサーに掛けたよう。
冗談みたいな地獄絵図が目の前で繰り広げられている。
全身は血の気が失せて肌寒いぐらいだって言うのに、二倍以上に膨れ上がった右ひざは焼ける様な熱を持っている。踏ん張る度に鋭い痛みに顔を顰める。機械的に腕のモノを振るっていたけれど、意識は朦朧で、何時になったら終わるんだろう、終わりは何時だろうか。
踊るのを止めたら、たぶん二度と動けなくなる。
叩きつけるような爆音が響いて浮遊感が有って、その後私の体は紙屑みたいに吹き飛ばされる。
喧しい音が一切止んで、その代わりキーンと耳鳴り。
何が起こったか理解できなかった。
辛うじて動く眼球を動かすと自分の首から繋がる四肢が打ち捨てられた人形みたいにくにゃくにゃ有り得ない方向に曲がってた。自分の体が完全に壊れてしまったとおぼろげに理解した。
私は喉が渇いて、舌を出して唇の砂を舐める。
鉛の体が重力に逆らえない。瞬きすらままならない。
いいのかな、私。じゅうぶんやったよね。
地獄だった。
私が残した爪跡が無残な姿でごろごろ転がってる。今し方私が、ゴミ屑同然に薙ぎ払った、人間、だったもの。
この人たちにも、大切な家族や、恋人や、子供や、人生が有った筈なのに。ごめんなさい。ごめんなさい。天国に行けるとは思って無いから。私も直ぐにそこに行くから。
だから、贅沢は言わない。
一目で良いから、あの人の姿をもう白く濁ったまなこに焼き付けさせて。
その願いも敵わない事も分かってる。
今頃怒ってるかな、せめて仲直りしてちゃんとおわかれも、
「――――」
幻聴かな、私の名前を誰かがよんでる。
「――――」
それはだんだん明瞭になっていって、
「――――」
嗅ぎ慣れた匂いに体温を分け与えられた時、自分の幸せを感じたんだ。
「こんな怪我して、君、馬鹿じゃないの」
嬉しい、来てくれたんだ。また会えた。
冥土の土産に、神さまも粋な計らいをしてくれる。
「さあ、帰るよ。君は目を離すとすぐに―――」
しかしもどかしい。むこうは切羽詰まって何か叫んでるけど、耳鳴りが酷くて何て言ってるのか、聞こえない。
ねえ、なんて顔してるの。何で泣いてるの。そんなに強く抱きしめられたら痛いよ。
悲しくないよ。私は、今幸せだよ。
一緒に居られて、幸せだったよ。
残り少ない生命の全てを使って、愛しい人に手を伸ばす。
せめて、感謝を込めて引き攣る頬で精いっぱい笑う。全て伝わればいい、私の今までの全て。なのに、余計に綺麗な顔が悲痛でくしゃりと歪んだ。
意識が濁っていく。マーブル状に白が黒と混じり合って、黒が私を侵食する。
さようなら。
さようなら、だいすきだったよ。
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