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雲雀が「応接室」に戻ると、アポイント無しの歓迎されぬ客人が雲雀を待ち構えていた。雲雀は眉根を寄せる。雲雀が仕事を裁くのはもっぱら愛校心から似せて造らせた「応接室」でだ。
雲雀が警戒心をあらわに怪訝な表情を浮かべたのは、その客が当然の如く黒張りのソファでくつろいでいたからである。
「お久しぶりです、雲雀恭弥。
お元気そうでなによりです。
少しお邪魔してしまいましたよ」
「……何で君がここにいるの」
カップを握る右手はレザーグローブに覆われている。
喪服と相違ない黒衣に身を包んでいるのは他人の血が黒に紛れて目立たないからだ。
整った顔に、怪しい笑い方。
ボンゴレの霧の守護者。と言えば正体不明、荒唐無稽の逸話が囁かれ、限られた人間しか彼の容姿を知らない。
霧の様に実体の無い怪しい優男、六道骸。
愛想の良い慈善的笑みのしたで、腐敗の臭いが鼻につく。
十何年来そばに付き従う草壁に言わせれば、雲雀もおとなしくなったものだ。顔を見た習慣にこの自慢のトンファーで応戦しないのは十年の月日がそうさせている。ボンゴレの手前問答無用に手を出す事も避けたい。
しかし、嫌いなものは嫌いだ。
雲雀の不機嫌には頓着せずに質問にはごく侵害だと鼻で嗤う骸である。
理由は押して図るべし、だ。
六道骸その人であれば、不法侵入など容易いもので、まるでマジックのように消え、また現れる男である。
その骸に命令ができるのはこの世で一人しかいない。
骸は優雅に艶っぽい唇を右だけ釣り上げる。
人を煙に撒いた小馬鹿にした笑い声、ゆったりとしたもったいぶった動作、話し方。
雲雀の我慢は着火一秒でもう使いきれそうになる。
機嫌を損ねたことは解っているのか、
「おやおや雲雀クン。そう不機嫌な顔をしないでください。僕がわざわざ出向いたというのに、そうあからさまな態度を取られたら、悲しくなってしまいますよ」
今まで何処にいたのか何をしていたのか、他の守護者も骸の動向には手を焼いている。」
「黙ってよ。要件は何。」
「クフフ…そう急くものではありませんよ。折角守護者が二人、ここで数年ぶりの再会をしたわけですから。世話話でもいかがですか?
」
こういう手合いは無視が一番だと雲雀は思った。
こんなふざけた男に付き合って、語らうなど寒気がする。
雲雀は何も答えず、さっさと席に着く。
無視を決め込み、ファイルに目を通す。
骸は少し興が削がれたように肩をすくめた。
「詰まらないですねぇ…」
仕方ないので骸は要件を話し始める。
「さてさて、僕が此処まで駆り出されたのは、お察しの通り、ボンゴレ十代目からのご命令ですよ。催促です、………守備のほうは?とこれはボンゴレ十代目が」
ああ、と雲雀は頷いた。数あるファイルの束からフロッピーディスクを取り出し骸に投げて寄越す。
「今のところ、何もわかってないよ。
この『ボックス』については」
雲雀はある物について調査を委託されていた。各地を回る雲雀であれば、その活用方法にも活路を見いだせるだろうという。ボンゴレ上層の依頼である。本当の所は、成果が出たら目を甘くしてもいいという沢田からの交換条件だった。
「沢田もせっかちだよね。あのボロボロのオモチャに何があるって言うの」
「僕にも詳しくは知りません。何故、ボンゴレがあれにそれほどご執心なのか。
しかし、ボンゴレの超直感は侮れませんからね」
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