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男の見下ろす目が動揺に震える。
ぬるりとした物が、モノから指へ、指から手、腕へと伝っていく感覚。手を離すと力なく男は地に伏した。
容赦無く、雨は洗い流していく。
血を吐き、地面に伏せる男の命諸共、洗い流し押し出していく。
しかし、血のぬめりと、死臭と、奪った実感として残る歯ものを沈ませる感覚は消えなかった。

手は小刻みに震える。






私が殺した。

摘まなくてもいい命を。

この手で。

両手を広げる。

耳鳴りがして、全ての音が遠くなった。

思い出した。

私はあの後ーーーー。



阿鼻叫喚。グロテスク。血のいろ。私が散らせた命。
ごめんなさいごめんなさいと心で許しを請いながら、この手で喉をかっ引いた。晒された憎悪と憎しみ、死への恐れ、畏怖。ごちゃ混ぜになる様々な感覚。浮遊感、耳鳴り、最後には何もなくなって。
それから、


私も、死んだーーーー?







憶えのある怒涛の奔流に身体を曲げた。またあの感覚だ。
遂には早鐘の打ち鳴らす激痛に苛まれ、身も世もなく転げ回る。
今のこの感覚が今なのか昔なのか今起こってる事なのか私が齎した痛みか自分の感覚かその両方か。吐き気がする。同時に起こったフラッシュバックに幼く小さい身体は耐えられなかった。沈み込む感触、死臭、体が全部痛い。馬鹿だね帰るよ泣かないでそんな悲しそうな顔しないでよそんな顔させたい訳じゃなかったの本当よーーー
感受性が鋭く、全てに同調して共鳴し、頭の中がパンクする。

落ち着け、落ち着けと念じても、身体と心が追いつかない。昔の記憶だと自分では納得していても、脳はそうは思わない。






突然世界と感覚が繋がった。
破裂音と共に視界が切り替わる。泥の中転げ回っていた、その所為で目先にあった腕は泥を掻き集めぬかるみに沈んでいた。妙に、静かだ。

「何してるの」

自分の目を疑った。台風一過の晴れ上がった月夜に愛しい幻を見た。
だって、これは私を痛めつけていた幻想の続きではないはずなのだから。



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