2
「あーもう、今ほど仕事場が地下体で嫌になったことはないわ」
一息ついたリリアは額に手を当てて鎮痛な面持ちをしており、赤い眼鏡の下にはうっすら隈が浮かんでいた。昨夜は徹夜だったようだ。
「仕事もプライベートも、全部地下で事足りちゃうのが問題なのよ…息が詰まるわ…」
だから時々頭を入れ替えにここにくるのよ、とソファにずるずるともたれかかった。
食堂に向かう道すがら、リリアに誘われたミクはなれない空間に甘くないダージリンだかジャスミンだかの茶色の液体に一つとったクッキーをちょこっと浸して、かじる。
ミクは基本的に好んで取るのは紅茶よりコーヒー派だ。
しかし、此の所生活時間がズレて朝も一緒に出来ない日が続いたリリアなりの謝罪の誘いであるのだろうと思う。本当はココがリリアとっておきの憩いのスポットであったのだろう。そこにミクを誘ってくれたのだ。断る理由が無い。
ポットからギャルソンからカップに注がれる。手慣れた動作はまるで魔法の様だ。
「ありがとね、付き合ってくれて。息抜きも、一人だとやっぱり味気ないわ、ミクが捕まって良かった」
「ううんー、私も任務前暇だったしーついでだよ。
こーんな豪華なところ私入れないし、お菓子は美味しいし、何だか得した気分だよ」
しかし、貧乏孤児院の暮らしの長いミクにはどうしてもお腹ではなく心を満たすことが用途の瀟酒な空間には気後れが生じる。孤児院出身はリリアも同じである筈なのに、リリアは生まれも育ちも高位貴族の様に高貴でそつがない。きょときょとと落ち着かずに装飾を凝らしたラウンジの内装に目を移すミクにリリアはふふと柔らかく微笑した。
「落ち着かない?こういう場所はね、慣れよ慣れ。当たり前だって顔してたら案外其れなりになるもんよ」
コロコロ悪戯っぽく笑うリリアにミクは慌てて否定した。
「嫌いじゃないんだけどね、ただ」
リリアのガラス越しの目が先を促している。
ミクは思い切って言った。
「前にも、こんなこと…あった様な気がして…」
リリアが目を丸くした。
ぴょこ、とツインテールの基耳が下がった。
「あなたが?……ここで?私と?」
「ううん…そうじゃなくて、ずっと昔…誰かはわからないんだけど」
腕を組んで考え込むミクに何をいっても詮無しと考えたのか、ギャルソンを一人呼び寄せてた。何かを握らせ、屈んだ彼の耳もとに囁き掛けたリリアは優美に微笑む。
「あ、雨。降ってきた」
ポツリとリリアが呟く。
ラウンジに張り巡らされた硝子戸にぱたぱた、雫が張り付く。
「やあね、ミク、あなたこれから仕事だって言ってなかった?
風邪ひかないようにしなさいよ、ね、聞いてるの?ミク」
[ 14/26 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]