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その日は生憎、曇天で、重く垂れ下がった雨雲が今にも泣き出しそう。
気晴らしにと折角財団管轄のホテルのラウンジまでティータイムを勤しみに来たと言うのに、この薄暗さでは逆に気が滅入る。
かちゃん、とソーサーにカップを起き、脚を組み直すリリア。彼女は実質始終画面を睨んでいる事が仕事のため頭痛とドライアイに悩まさせれている。眼薬の手放せないリリアの悩みは肉体労働派のミクには理解出来ないこと。視力低下も財団に入隊してからは著しく、遂に必要に迫られて購入したと言う細い鼻梁に掛かった赤い縁の眼鏡は白雪の肌に聡明さを付け加えていた。

雲雀率いる財団の雲雀直々に力量を測るという乱痴気騒ぎから半年と少々たった。組織の仕組みと成り立ちが分かって来て、育ち盛りのミクは少し背が伸びた。しかし大人達の目線を合わせる為に精一杯背伸びをして首が痛くなるくらい世界を見上げる日々は変わらない。
ここでは、大人も子供もなかった。強いか弱いか、使えるか使えないか、それだけ。
最初こそその甘い容姿で嘗められていたが、一度前線に共に立てば、侮りが杞憂であったことがわかる。軽いフットワーク、鮮やかな身のこなし、確実に敵の急所を狙う両手のスティレット。ツインテールはその度に長い耳の様に飛び跳ねた。経験値も状況判断も申し分ない。本当に齢若干十歳であることを疑ってしまう程だ。
力比べで云えば大の大人に見劣りはするが年齢と小回りの効きやすい戦闘スタイル。其れに相応しく付いた渾名。
敵対組織の一掃や残党狩り、用心の護衛など、ミクは与えられた任務は熱心にこなした。
ただ時間が使い減らされている教会暮らしと比べたら目標のある毎日は充実していると言える。ミクは孤児院の家族を愛している。時々、優しかったマンマの腕や仲の良かった泣き虫の女の子の夢を見たが、便りは書かなかった。自分はもうこの剣呑な世界に和えて飛び込んでいったのだ。何があるか分からない以上、繋がりを持つのは危険なことだとミクは割り切ったのだ。
しかし、まだ完成されていない十歳の心がこうも厄介だとは。ミクは歯噛みする。突然物悲しさが幼い心を襲って台風の様に荒らしていく。大抵このミクの本質の理解者リリアの温もりがその空虚を埋めてくれるが、リリアが仕事で部屋に居ないとなると、荒れに荒れた。
どうでも良い事で大泣きをするし、易い挑発にも一々反応して止せばいいのに喧嘩を買ってしまう。更に頻度を増して来た知らないはずの情景のフラッシュバックに、感情のコントロールを失う。
人と上手く関係を築けない。ミクは同じ部隊に仲間は愚か信頼関係すら気付けていない。
溢れ出る感情が全てを台無しにする。感情の起伏がいままで少なかった分、自分の気持ちの折り合いの付け方が分からない。
面倒見の良いリリアにはミクは感謝していた。涙を貯め怯える子供のミクの時は母親がするように優しく背中を宥めてくれるのだ。



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