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壇上の1番座り心地の良さそうな椅子に腰を沈め足を組んで偉そうに踏ん反り返っている威厳ある姿に号令と共に畏怖の敬礼が一斉に掛かる。
ホールいっぱいの千何人の人間の同時の敬礼は毎度ながら圧巻。これは、恐怖政治…いやいや、慕われてはいるのだろうな。

規律と忠誠を重んじる風紀委員の頂点に君臨する、王様。すごいな、恭弥さんらしいや。
頂点の君主足りえる恭弥さんと、この、ちっぽけな、私。恭弥さんからはゴマ粒程度にしか見えてないだろう。恭弥さん、なんて呼ぶのすらおこがましい。

でも、だって。
それでも、恭弥さんが、早朝の眠気を引きずって、目をショボショボさせているのをみると、懐かしさというか愛しさで胸がきゅんと絞られる。ああ、恭弥さん、まだ頭は起きてないんだ。
朝が弱いのは相変わらずなんだね。昔との共通点を見つけると何だかその日は嬉しい気持ちになってしまう。記憶をこっそりと自分の中で愛でて、ニヤニヤする。凄く気持ち悪い。




風紀委員として大抜擢を受け(どう考えても生贄)厳ついリーゼントの中の紅一点として噂の委員長の補佐をすることになった。
噂も噂だったのでなるべく君主の期限を損ねないように気を配る委員会の時間は私にとって苦痛以外の何物でもなかった。
もう、昔の話だ。
まだ、恭弥さんが特別になる前の。

私の事務にやかましく口を出してくるその委員長。持ち物検査で鳥が鳴き始める七時前に怠い体を引き摺りながら家を出た朝。
校門で遅い、と唸った雲雀は反応が鈍く、指示以外にほぼ無言。始めは機嫌が悪いのかと思ったが、その鈍さの理由にピンときた時に、何だか鬼の目には涙、親近感が湧いてしまった。
それが、はじめ。


ある朝、打ち合わせの前に濃いめに作ったインスタントコーヒー。マグでデスクに散らばった書類を下敷きにする。

それを恭弥さんはその茶色の湖面を見つめて、なにこれ、と呟く。パチパチ、と瞬く睫毛の長いことを知ったのも初めてだった。

私は自分のマグを軽く掲げて、コーヒーだけど?と牛乳たっぷりのカフェオレもどきを啜って嘆息した。
警戒心現わに暫く目の前に置かれたものをじっと見つめていて、信用されていないのかどうせ、と内心毒付いた。ガリガリに痩せ細ったノラ猫の目の前にツナ缶を置いてみるような、単純な親切心とちょっぴりの好奇心。

しかし、予想と反し、その猫は不承不承に猫の舌先を熱い液体に着けたのだ。私の不信の心は驚きに包まれた。
元々釣りあがっていた眉尻がもっと上がる。

熱い。

覚まして飲んでくださいよ。

それに不味いよコレ。まるで泥水みたいじゃあないか。君、毎朝こんなものを飲んでるの?君は僕を殺すつもりかい。

舌が肥えてる雲雀さんは庶民の味を知るべきです。この安っぽい風味と苦さが、慣れてくると癖になりますよ。

でも君のマグの中身はずいぶんマイルドそうだね。ほぼ牛乳じゃない。

、、、、、すみません、私苦いの苦手なんですよね、実は。

良く僕に講釈垂れる気になったよね、バカじゃない。

………言い返す言葉もないです。
私のマグを手からもぎ取る。

ほら、不味い。もういいよ、こんなのまた飲まされたらかなわない、明日から僕が入れるから。
私に突っ返されたマグはからだった。


次の日には豆を煎る機械と抽出する金属の何かが届き、毎朝、私のために奮闘する意外に真剣な雲雀の後ろを眺め、それをご馳走になるという奇妙奇天烈な恒例行事が繰り広げられることに。
目の前に乱暴に音を鳴らしてカップを置き、飲めと無言で圧力をかける癖に、私の感想を伺っている姿が可愛かった。

ううん‥‥。

なに‥‥?

苦いです。

当たり前でしょ。言うにことかいて、言うことソレ。


あんなに、近くにいたのにな。

ミクは遠い目で、本当に遠い、微笑ましい大切な思い出を思う。

今も、ミクは雲雀を一目見るにも大人たちに混じって精一杯に背伸びをしなければならない。

私の代わりにコーヒーを入れてあげる相手は出来たのかな。

そうあってほしいと願うし、見たくない気もする。

いずれにせよ、ミクの分身はもう遠い、雲雀の思い出の中の人だ。

いくら、ミクが思おうとも。


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