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「おお、どうしたね?」

きまりの悪さから、そろりと部屋をのぞいたら目ざとくすぐに気付かれた。そこには先ほどは居なかった先客がいた。

「あら、かわいいお客さんね。迷子になったの?」

「ああ、このこは、昨日はいった新人だよ。驚く事に、先鋭隊の仲間入りと来た。一回り、いや二回り年は離れちゃあいるが、女性同士だ、仲良くしてやってくれ」

「二回りって、失礼ね。あたしそんなに年食ってないわよ」

おじさんの紹介に美女はぷりぷりと腹を立てている。女性はやたら胸のあいた服を着て、かき流した髪が色っぽい。大人の女性、といった風貌の彼女に見とれてしまっていた。

「お噂はかねがね聞いてるわ。新しく入ったおちびちゃんね、名前、なんて言ったかしら」

「ミクです」

「そう、ミク。あたし、リリア。女の子同士、仲よくしてね。
あ、女の子って年じゃないだろって突っ込みはなしよ」

ウインクをして、握手を求める。

「あら、これ、B3−225Aって私のおとなりよ!よかった!
これからは女の子同士のお話がいっぱいできるわね。ここ、当たり前なんだけど男ばっかりで、辟易していたのよ」

不案内な私を伴って宛がわれた私室まで送ってくれた。途中、大型のエレベータらしきものに乗り、同じような道を何度も通った。慣れるまでに何度でも迷子になりそうだ。

私に用意された部屋は簡素なパイプベッドとクローゼット、シャワールーム。狭いビジネスホテルを彷彿とさせた。生活のうちに自分の物も増えていくだろう。土で汚れたパーカーを脱いでクローゼットのハンガーにかけて、腰のナイフのホルダーを枕元のスタンドのもとに置いた。
ベッドの上で一息つくと酷い疲労感が私にのしかかる。なりふり構わず飛び込んでみたけど、本当にここまで来た、と唐突に実感した。
私には決してゆるやかではない道のりが待っているのだ。それを敢えて私は選んだ。
幻にも近い、大昔の恋を追って。
馬鹿なことをしているのだろうか。意味のない断片が一つに繋がった時、私にはそれ以上大切なものがあるとは思えなかった。
親しい肉親も居らず、自分を犠牲にしてもよいと思うぐらいに大切な人もいない。安月収で雇われ仕事に就く、見える面白味もない未来。
それならば、どうして毟り取られた前の私の命。その慟哭に従うのが正しいことのように思えた。でも、如何しよう。ただ、有りのままを言っても唯の妄想にしか思われないだろう。
「この後の事は、明日考えようっと」
考え込むのは苦手なので、ベッドに入って五分もしない内に夢の中だった。





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