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「これはお笑い草だ。
マフィアと言う人間は何処まで愚かなのか。ファミリーの為とうそぶきながら銃を取る。
大義名分を並べればそれが免罪符のなるとでも思っているか。片腹痛い」

吐き捨てる恐らく心底に貯めた少年の憎しみは、私をも敵に変える。

「あなたは長く彼らといすぎたようだ。
愚かな価値観に侵されてしまっているのですね……残念なことです」

私を真正面に見据える眼光には悲しみがあった。

これから私の辿る長く長い道。少年との道は違った。

「あなたとは仲良く慣れると思ったのに」

もう少年にとって私は何者でもない。
ついていた両手に力を入れて跳ね起き、身を翻して自分を脅かす危険人物から身を遠ざけようと脱兎の如く危うい地面を蹴る。

「……犬!千種!」

聞き慣れない単語が背後から飛んで来たかと思うと私は地面に叩き付けられていた。ぐうと肺がいやな呼息を吐き出して、一瞬呼吸が止まる。痛い!上から押し付けて来る何かから逃れようとして埃塗れになりながら無様に地に付して泳いだ。

「離して、離して」

黙って従ってやるものか。

自由な右手をポケットに突っ込んで叫びと共にナイフを抜き何者かに切り付けようともがく。瞬間、

「…っ!」

カランカランと音は私から流れ飛んで行き、私の唯一の頼みの綱が見えなくなった。せっかくスクアーロさんが私にってくれたものなのに。

「…危ない物を持って
あなたにはそんな物似合いませんよ。弱者は大人しく怯えていればよい」

振り上げられていた靴裏を静かに下ろして私を冷たく見下ろしている。
それに縋り付こうとした指。

衝撃的だった。生まれてからずっと当たり前にあって鉛筆を持ちお箸でご飯を食べて、一心腐乱に絵を書いた。その右手が、在らぬ方向にへしゃげているのだ。

「!!」

「おやおや、すみません。咄嗟のことで手加減が出来ずに…」

強烈なるな激痛に身もだえ、左で手首を握り締めながら転げる。

「中指と人差し指が折れていますねぇ、痛いでしょうかわいそうに」

身を屈めてしげしげとのたうつ私を眺めながら、私の哀れな右を取り言った。次に何が来るのかと無理矢理にでも首を捻ると帽子に眼鏡の男の子が無表情で傍観にていして、活気盛んそうな男の子は犬歯が鋭く唇からこぼれていてはっはっと息を荒くしながら興味津々に私を見ていた。脂汗が額から伝って落ちる。黙って来るんじゃなかった。
誰か、誰でもいいからこの苦痛から解放して。

彼らを従えている少年はああ、と何か思案して、思い付いたように言った。

「あなたは、素晴らしい趣味をお持ちだった。
絵を嗜むんでしたね」

私の髪が乱暴に引っ張られて体を引きずり起こされる。

「もう、二度と随意に動かなくして上げましょうか」

酷薄に私のじたに直接吹き込み私を奮え上がらせた。

「や、やめ」

「クフフ…冗談ですよ!そんな酷いこと僕があなたにするわけないじゃないですか!」

邪気のない顔が更に恐ろしい。私が真っ青にしているのを見ておかしいと笑った。こうも自分と違った人間に残酷に成れるものだろうか。

「骸さん!こいつどーすんの!うっさいから黙らせる?」

「こら、待ちなさい犬
彼女は大切な餌…僕の役にたって貰います」

少年はいつの間にか三又に別れた槍のような物を持ってそれを愛おしそうに撫で愛でる。辺りは靄がこくなって私たちを包んでいく。
呪文のようにエコーして脳に呪いの言葉が響いてる。


「恐怖を恐怖で上書きし、

更なる闇へと落としましょう

二度と希望を持たぬように

詰まらない情など思い出さぬように

全てが黒になった時、

あなたは、僕のものだ」



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