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その日は何時もよりもちょっと暖かいカラッと晴れた昼下がり。

突然呼びつけられて、ドンドン強めに堅牢なドアを叩いてみても返事は一向にない。
嫌な予感しかせず、返事も待たずにこの建物の中心に位置する執務室に足を踏み入れる。

「ユイです〜、失礼しますよ〜〜」

この部屋は一番広い割に物も少ない。
奥にでんとデスクが一つに来客用の低い簡素なテーブルと三人がけの紺のソファが向かいに二つ。完全外向き用のスペースで部下からの詳しい報告もここで貰うらしく、古びて大きなデスクには一番偉い人が据わる事が許されている。会社で言えば、それが社長で、社長室に頻繁に出入りすることが許される傍らに控えてフォローするのが秘書、ロマーリオさんだ。
社長は主に偉そうにして高い位置から存在感を示すのが仕事で、ここのボスはそうじゃないみたいだけど実際の仕事は机にかじりついてデスクワークが主だ。ボスに会いに行くのに一番手っ取り早いのはこの執務室に来ることなので、私には結構お馴染みの場所だ。

何時もの様に勝手にひょっこり覗き見て部屋の主を探す。お目当てはすぐに見つかったが私は予想通りの光景に溜息をついた。

「おう、ユイ、来てくれたか!待ってたぞ」

正に天のお助けとばかりにぱっと付かれた顔を綻ばせて私を歓迎するロマーリオさん。の、奥に、山積みの書類の雪に埋もれて、机に突っ伏している、死臭の漂う金髪おとこ……。

「これはどういう状況ですか……」

「見たとおりだ」

ああ、今回は酷い、思ったより酷い。
この一室で展開される地獄絵図。
力尽きた金髪はぐったり額を卓に押し付けてピクリとも動かない。何時もボスはこの部屋を監獄と称して収監されるたびに度々脱獄を
図っている。本気でデスクワークが嫌なのだ。
何故分かっているのにこういう極限の仕事しかしないんだろう。

ロマーリオさんはそのぐったりとした肩を揺さぶってほら、ユイが来てくれたぞ、と私を使ってボスを復活させようとする。
がくがくと襤褸雑巾のように左右に揺さぶられるままになっていた物体がやっと私を捉えた。

「ん、ユイ………?あーーーーー、ユイ〜〜〜〜……!!!
オレに会いに来てくれたのか〜〜おにーさんは嬉しいぞ〜〜」

目が合って軽く引いた。うわ、目の下すごい隈!!あんまり関わり合いになりたくない。
へら、と力ない笑顔。げっそりと青白い顔はこけて死相が出ている。
ヤバい。これはレベル的には十段階で極限の九。

「あ〜〜、ユイ、オレはもう駄目だ。眩しくて、目が明かねえ。目がかすんで、可愛いお前の顔も見えねえ、明日も見えなければ、未来も見えねえ」

ハハハハと不気味な笑いを浮かべてあらぬ場所を見詰めて存在感すら薄くなっている。窓をから飛び立たれでもしたら冗談じゃない。

「何、縁起悪い事言ってんですか?!ああ…ほら、もう少しじゃないですか!!
明日は見えて無くても、書類の終わりは見えてますよディーノさん!!」

なんとか此方側に戻そうと紙の城を指して言うが、蕩けた顔で笑っただけだった。

「オレの墓標にはこう刻んでくれ、
決算表で圧死した男、我らの永遠のボス、この地に眠るってな」

「寝るな、寝ないで下さい!せめて全部終わってから、落ちてください!!」

目を瞑って動かなくなったディーノさんの頬を少し乱暴に叩く。しかし体を揺すっても何しても、反応が無い。
ただのしかばねのようだ。

「ボスが仕事を貯めるのはいつもの事だけどな、今度は時期が悪かった。急な会合が重なってな」

ディーノさん、さぼっちゃったんですね…。
三日前は余裕だ余裕と言って医務室に居座っていたくせに、見つかって缶詰状態らしい。



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