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「うわ………如何転んだらそうなるんですか」

「どうせこの子面倒くさがって手当も碌にしてないのよ。何とか言ってやってよお」

マリアさんは私が食べ終わるまで居座るつもりらしく私から目を離さない。
結局、あの後、一人は私の血を見て言い訳を喚き散らしながら血相を変えて逃げてしまって、もう一人は、血色の良い赤めの顔を蒼白にさせて、決死に謝られた。尋常じゃない謝り方に其れは驚いて、あなたが大丈夫かですかと心配してしまうぐらいの動揺ぷりだった。「こ、殺される…」


「あら、アレクのヤツ、帰ってきてないの?」

「此処の所入れ違いで………洗濯物だけ置いてあるから帰ってるには帰ってるのでしょうけど……」

「アレクも居ない、良く分からない連中の出入りは激しいし、私の気のせいだったらいいんだけど、な〜んか嫌なのよねえ。
最近の、空気っていうの?なーんかぴりぴりしちゃって」

マリアさんがため息交りに下で足を組み直しそう言い、ほらと示す様に改めて食堂内を見渡した。
中は何時もの通り、時間も時間で有って人でごった返している。しかし、この重苦しい雰囲気は少しずつ少しずつ、此処全体を包んで払拭される兆候を見せない。それが、ついには家人にまでも伝染している。居心地が悪いったらない。良くない感じだ。

「そ、それよりも、ユイさん、ドクターがいないんじゃさぞお困りですよね。
そういう、俺は良く分かんないんすけど、専門品買う所って、当て有るんですか」

慌ててはいったマッテオさんの声は調子外れで辺に明るかった。

「う〜ん。場所の描いてある地図は何か合った時の為にって貰ってるんで、しょうがないから明日にでも買い出しに行こうかと思うんですけど」

「じゃあ、俺付いて行きましょうか?明日はオヤジは出張ってるんで、丁度オフの日ですし、女性に重い荷物持たせるのはやっぱり忍びないっすから!」

「本当ですか?じゃあ、お願いしようかな。実は遠いから、如何いったらいいか良く分からなくて、其れに結構な量になっちゃうと思うんで困ってたんですよ」

「いつもお世話になってますから当然の事です!今、女性が独り歩きなんて物騒ですよ」

「宜しくお願いしますね」


「あら、二人でお出かけのお約束〜〜?」

約束の取り付けをただ眺めているだけだったマリアさんは表情を取り戻し、頬杖を付き顎をちょっと付きだした。

「あ〜ん、お邪魔かしら?おばさんは退散しようかしら。

でもねユイ、年が近いって事もあるでしょうけど、あんまり他の子と仲良くしてると、ぼっちゃんが焼いちゃうわよ?
つい昨日だって零してたんだから〜」

ツンツンと私の肩をつっついた。

「え、ディーノさん、帰ってきてたんですか………」

私はと言えばちょっと衝撃を受けて居た。知らなかった………何時から居たんだろう、知らされていなかった事にちょっとショックだ。

「もう、ロマーリオなんて苦笑いだったわよ。
もうそろそろ、仕事に成らんなって。たしかに、最近ちょっと忙しそうよね〜


マリアさんはエプロンで包まれた凹凸のある体を乗り出していたずらっ子の笑みで可愛く人差し指をほっぺの横に立てて見せた。

「ユイにとってはディーノ坊ちゃんは頼れるお兄さんって感じなのかしらね〜〜やっぱり」

「う、う〜ん、そうなんですかねえ」

やっぱり!と生き生きした表情でマリアさんは私の微妙な反応に気が付かない。

「ぼっちゃんって今では落ち着いて来たけど、もう、其れはやんちゃ坊主だったんだから!
もう、毎日毎日、ぼっちゃんがやんちゃやらかしたって家中でもう大騒ぎ。
懐かしいわ〜〜〜私たち下の者にも優しかったのは変わらないけどね。
家庭教師からは逃げ出すし、学校でも勉強あんまり得意じゃなかったみたいなだし〜。元気良くって家出なんてしょっちゅう。
ご当主さまはかなり手を焼いていたわ〜〜」

周りを巻き込む台風の目体質は昔からだったんだ……。これで落ち着いたとか、昔ってどんなだったんだ?!大変だったんだからと言う割に表情も口調もちっとも嫌そうではない。寧ろ楽しそうだった。
これもらしいったららしい。自然頬が緩む。それでもなんでか人に好かれちゃうんだよね。
しかし、マリアさんは続けて言う。

「だから、かしら?最近のぼっちゃん大人しくて、私はちょっと心配だわ。揺り戻しが来ないと良いけど………」

マリアさんがあんまりにも沈んだ顔をするので私もそれが伝染した。
ちゃんと仕事してて変って言うのも変だけど。

「私は良く分からないですけど、確かに、ずっとお仕事の事ずっと考えてるのはストレス溜まりますよね」

「私たちはぼっちゃんを信じて待つだけよお………基本的に坊ちゃんは真面目で良い子だから。
それよりもその、家庭教師がね!その子がとっても変わってて〜」

その『子』ってなんだ………?
何て名前だったかしら?と首をかしげるマリアさん。横のフォークにパスタを撒き付けているマッテオさんはぼっちゃん呼びが誰か頭で結び付かなかった人物がようやく誰の事分かったらしい。ちょっと待って下さいと話しの腰を折った。

「待って下さいよ、ユイさん、ボスとお知り合いなんですか?」

「な〜にいってるの!あったりまえでしょ〜〜確かユイを連れて来たのはディーノ坊ちゃんなのよ?
詳しい事情は良く知らないけど、御両親が御不幸で縁があってぼっちゃんがってことだったわよね、。
もう、ディーノぼっちゃんがユイにベタベタなのよねえ!見てるこっちが恥ずかしいわよもう!
ユイにボーイフレンドなんか出来ちゃった時にはショックで寝込んじゃうんじゃないかしらってね」

「寝込むって!?マリアさん!面白がってません?!」

否定は出来ないけれども、寝込むと言うか、全力で泣いて縋られそうだ。

「だから、気を付けた方がいいわよ。
生半可な覚悟で、手え出したりなんかしたら後が怖いんだから」

「知らなかった…」

「マッテオさんが困ってるじゃないですか!」




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