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「メシはちゃんと食ってたか?」
「はあまあ」
「何だよ気の無い返事は!お前、自分の事はいわねぇからなあ……なんかあったらちゃんとオレに言えよ?オレじゃなくてもロマーリオとかアレクでも誰でも」
「はい」
「なるべくならオレに話して欲しいけどな」
「はい」
「…………。何笑ってんだよ」
「……いいえ?」

ちょっと不機嫌になって頭をわしゃわしゃする。

「ディーノさんこそ疲れてませんか?」と心配すれば「オレは良いんだよ!」と何故か向きになる。
「……なんつーか、ホント…」
へへっとはにかんだ笑み。
「あー何か元気でた!!ユイのお陰だなっ」
「何もしてないですが」
それでもこうやって時間を作って様子を見に来てくれるので私も取り敢えず元気そうにしている姿を見て安心出来る。
「調子良いことばっかり言うんですから」
「あーもうっお前は可愛い!!スゲー可愛い!」
「は、はあ?!ちょっやめっ……苦し……」
ぎゅうぎゅう私の頭を抱えて胸に押し付ける。
嫌じゃない、嫌じゃないけど、恥ずかしい!!
「はは、その過剰反応!ユイだよな〜〜〜照れてるのか〜〜?
照れ隠しか、恥ずかしいのか〜?」

邪険にされて何喜んでいらっしゃるのか。嫌がれば嫌がるほどヘンタ………ディーノさんは喜んで、もう夜中だと言うのにハイテンションに可愛い可愛いを連呼する。
ディーノさんは時々大分私の理解の反中を超える言動をなさるから、こういう風に小弄繰り回されるのもしょっちゅうだ。拒否すると傷ついた顔をするので、無下にできないと言う。人づきあいとは加減が難しい。
何時もの調子で私の手を引っ張り、私の返事も聞かずに外に強引に促す。その脳天気で今にも鼻歌歌い出しそうな嬉しそうな顔と私の手をすっぽり包んでしまう手の温もりは全てをなあなあにしてしまう魔力がある。
ディーノさんはもう勝手知ったるで、簡単にデスクの上を片づけた。何でも出したら仕舞う習慣が顕著になったのはここの世話係と生活する様になってからだ。汚くすると問答無用に頭を叩かれるので。

――そうだ。あれから、一年。

時々こうしているのがとてもとても不思議になる。
異国にいる自分。異国語が堪能になり、学校にも行かずに一回り二回りも年上の大人に囲まれている生活。
めぐりめぐって一年。
前の自分が凄く遠くて、もうそっちの方が何だか夢だったみたいだな、なんだか。
自室に着くなり取り出した冷たいドリンクを手渡されて、ディーノさんは自分のを豪快にあおる。
冷たい水滴の付いたペットボトルを両手で弄びながら、それを見ていると突然ごそごそディーノさんが着替えだしたので慌てて後ろを向いた。面白そうな忍び笑いが聞こえる。もう、少しは慎んでほしい。
周りからはボス離れしろよ、と苦笑混じりで良く言われる。
ディーノさんは、私に優しい。どろどろに甘い。これが私以外の女性に十分の一だけでも向けられたなら女性はイチコロだと思うのだけど。

実際、ディーノさんは私よりも年上で世間で言う遊びたい盛りなはず。お金がないはずは(女中とか雇っている時点で)無いと思うからだからもっと夜遊びでも何でもしてくれば言いのに。
それを邪魔しているのが私だったらやっぱし駄目だ。私は小さな子供では無いのだし、重荷になりたい訳でもない。
一緒にふざけて、騒いで、笑って。いつまでこれは続いてくれるのだろうか。いったいいつまで、この上等な男のお気に入りの玩具でいることが出来るだろう。

気付いたらサッサとディーノさんはキングサイズのベッドの毛布に潜り込んでしまっていて、こんもり右の方に大きな塊が出来た。毛布をかぶり込んで鮮やかな金髪が頭の方から覗いている。
うす暗い部屋はやっぱりひっそりとしていて、ちょっと肌寒い様な寂しい様な感じがした。
何度来てみても思うのだが、この部屋は作りは一際豪奢な癖に広すぎる。
だから、仕方が無いかな、とも思う。ここのご主人さまは一際寂しがり屋さんなのだ。
ぽいぽいとブーツを脱ぎ捨て、私も図体のデカイ塊の、隣の空いたスペースに体を滑り込ませる。ひやっとシーツが肌に冷たく自分を抱くように身を縮み込ませる。背にはお馴染みの気配が有る。
躊躇いも無く、仮にも年頃の男性の寝台に入ってしまっている。自分もその他大勢の部下同じく絆されてるなあと苦笑交じりに思う。
「やっぱ、怒ってるのか?」
「…え?」
「や、なんでも」
身動きする気配が有って、突然布団の下で無理やりに隙間から手を突っ込まれてお腹に回った二本の腕。
「…………充電」
「は?」
「携帯にでも連絡してくればいーのによ。淡泊だよな、お前って。」
ぐっと抱き込まれて、一回り大きく、背中に密着する私よりも些か高い人の温度、気配と、埋められた髪に当たる、温かい吐息、匂い。それらが全て、不自然なほど体になじむ。
「そういや、髪…伸びたよな」
不意に何を思ったのか、一房を持ち上げて、ぽつりと背後から落とされた言葉。
「あーー……………、やべ…落ち着く」
な、なんだかなあ。
香水と男性の匂い。…………………………ディーノさんの、におい。
ゆっくり、目を閉じた。


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