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もう既に腕を枕にして寛ぎの体制に入っている赤毛の横で、気の良いマッテオさん近況を報告し合った。やはり花が咲くのは自分の上司の悪口だ。下世代は上との人間関係にいろいろ苦労する。お互いに愚痴を言える相手も居ないので同調し合って言いたい放題になってしまうのだ。ベッドで雑誌を捲っていたカルロさんがお座なりげに呟く。
「君達さ〜〜〜、そんなに不満が有るなら本人に言えばいいじゃん〜〜?
ここで言ってても何も成らない訳。分かる?」
「「言える訳ないでしょう!!」」
恐ろしくぴったりに叫びがはもった。
「意気地のないの〜〜」
ぺら、と乾いた紙の捲る音がする。
お湯がしゅんしゅか湧くのには丁度良い頃合いだったので横をすり抜けようとした時、そのカルロさんの手元の雑誌の見出しが目に入った。
「なに、興味ある?もう読んじゃったから、見ても良いよ」
カルロさんがその紙面を私の方に向けてくれる。
あるバーで起こった惨殺事件の記事。その現場状況、被害者について事細かに記されていた。後はこの筆者の勝手な憶測が事件の悲劇を面白可笑しく呷りたてている。
読み進めている内にその事件が起こった場所が直ぐ隣町だったことに驚いた。成程、これは地方紙だから余計に話題に成る訳だ。

「怖いよね〜〜〜これで3件目か〜〜。ユイちゃんも気を付けなよ。ちょっとお出かけするのは控えた方がいいかもネ」
「3件って、これ以外にも似たような事件が起こってるんですか?」
「何、君、それも知らないの〜〜?騒がれてるのにさあ。箱入り娘さんも考えものよ?」
態とらしく肩を竦めて溜息を付いた赤紙にムッとしたが、珍しく真剣な目、口調で説明してくれた。
「唯の猟奇殺人だったら、別に良かったんだけどね。
でも、その被害者っていうのが全員…」

「俺は、何度オマエを捜索せにゃならんのだ。」

がらっとドアが開いて話は中断。長身でガタイの良い男が顔を出した。
気難しそうな顔を更に眉に皺を寄せて、驚いた私たちを高い所から見下ろす。大柄で筋肉質な体に強面の厳つい顔つきは其処に居るだけでかなりの迫力が有る。
会話はぶつりと切れて、カルロさんに何考えているか分からないへらへら緩い表情が戻った。
「よう、グイード!」
「ようじゃねえよ、このヤロウ。」

ごんと小突く以上殴る以下のゲンコツを赤髪の脳天に食らわせる。
「いてえ!もうちっと手加減しろよ!馬鹿になる」
「安心しろ、もう既にお前の脳みそは不良品だ」
ひでえなあと頭を撫でるカルロさんを無視して、グイードさんが私に会釈をする。
風貌に似合わず、礼儀正しい所作で、この人が見た目通りとても真面目。何故だがこの如何にもチャラい軽薄な赤毛と一緒に居るのだ。彼らは同じ教会で育った幼馴染らしい。
グイードさんを困らせる為に、カルロさんはわざと好き勝手している節がある。私には分からない、男の友情腐れ縁。
「いま、紅茶を入れようと思ってた所なんです。グイードさんはダージリンでしたっけ」
グイードさんはがしがしと私の頭を大きな手で掻きまわす。
「実は、今日はこの馬鹿は物の次いででな。
今日はお前に用が有る。ボスがお呼びだ」
行き成りの名指しの御指名に目を丸くする。
私たちは顔を見合わせた。





「ディーノ君、この子が例の子かね」
命令だと言われて従わせられるのは好きじゃない。用が有るなら自分の足で、来ればいいだけの事だ。
かつかつと速足に指定された其処に赴き、更に歩調は速くなる。
で、ノックして慎みを持って入室すれば、見知らぬ人からの第一声がそれだ。
初対面の初っ端から例の子呼わばりされる筋合いなんてない。
そして、向かいには随分見てなかった気がする元気そうな姿。私を見るなり「おう、来たか」と私を手招きして呼び寄せる。その、呑気そうな顔と言ったら。
「初めまして、お嬢さん」
そのお客様、初老の御老体は、すっきりとしたストライプのグレイのスーツに身を包んでおり、私に握手を求めた。お客様の手前、如何答えて良いか分からず、苦笑いが張り付いた。初めまして、と取り敢えず挨拶はしてみたが、簡単な自己紹介でも、困惑の色は隠せない。如何いった態度を取らば良いのか見当もつかない。取り敢えず笑顔でカバーしておいた。
すると、相手も嬉しそうに其れに答えた。ゆったりした喋り口調で私に答える。
「私こそ突然予告もなしの訪問で悪かったねディーノ君。こんな可愛らしいお嬢さんとディーノ君が知り合いだなんて、ついこの間まで知らなかったんじゃ。
君の事を少し聞いた。君の事はなんて呼べば良いかな?」
イタリア語で喋った筈なのに次に返ってきたのは流暢な日本語だった。少なくとも、私が東の出だと言う事は知っているらしい。てか私の知り合いは日本語堪能な人多い。


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