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仕方ないので待つ体制に入ろうと、簡素な椅子などは無いかと体をくるっと反転させる。あんな豪華なふかふかのソファーに堂々と座るなんて恐れ多くてとてもじゃないが出来ない。最近、豪華すぎる私室ばかり見ているので感覚が狂いそうだ。私には少し狭くても生活感がある、ごちゃっとした日本の民家の方が普通に落ち着く、性に合う。


ベットの足下の、丁度壁と死角になっている場所で、もそりと何かが動く気配がした。衣擦れの音が少し響く。
私は慌てて回りこむ。もしかして、もしかして…!!

いた……!!

目に入った見事な金髪に、それだけで目の前がかあっと熱くなる。
やっと、やっとやっとやっと……あえた。
だらりと座り込み、壁に体を預けていて今はぴくりとも動かない。
顔は伏せられているので、私に気づいてくれる事も無かったし、もちろんあの端正な顔立ちを見ることは叶わなかった。
でも、分かる、いや分からないはずはない。だって、ずっと探していた、私の大好きな人。

どう、声を掛けようか。いきなり私が流暢にぺらぺら話し出したら、きっと驚くに違いない。そして、よかったなと明るい笑顔で自分の事のように喜んでくれる。そしたら、一緒にまた羊羹でも大福でも一緒に食べましょう。この声で、この口で、話したいことがいっぱいいっぱいある。勿論、御供は熱い熱い私が淹れた日本茶で。

人の気配には、流石に敏感で顔を力なく床に向けたまま、あ、と口が動く。
そのまま、次が続けられた。

「あー。ロマーリオか、悪いな……貰って来てくれたか。
ついでにコップに、水一杯注いできてくれると助かる………。」

私はロマーリオさんに間違われているみたいだ。
様子がおかしい。ロマーリオさんの暗い顔を思い出して、再開に忘れ去っていた気持ちの悪い不安がまた戻ってきた。
具合でも悪いんだろうか、いつも見ていたあのずれっ放しの元気さ、賭け値のない明るさが全く見られない事に気がつく。覇気がなく、ぼおっとしているこの人が本当に本人かと疑いたくなるほどだ。
ディーノさんの勘違いはそのままにして、勝手に冷蔵庫を漁り、ミネラルウォーターを注ぐ。まったく自分にはあきれ果てる。自分のことばっかりでディーノさんの異変にはまったく気づかず。
ぶつぶつ聞こえないくらいの小音で何かを呟いていて何を言っているのかさっぱり分からない。それでも私がグラスを渡すとサンキュ危なっかしい手つきで受け取ってくれた。
それによってやっと私に目が行く。

「………………?
……ユイ………、ユイなのか……?
何でこんな所に………久しぶりだな」

反応の薄さに拍子抜けをする。肩すかしをくらった気分だ。
大喜びをしてくれと言うわけではないが、私にとっては大イベントだったのに………所詮こんなものか。本当に自分は自惚れの強いな。

「あー………かっこ悪いところ見しちまった………。
半人前のくせに持ち上げられていい気に成って、部下のこともよく知らないへなちょこが………見たとおりこの様だ………ボスが聞いてあきれるな、ハハッ」

はははと自嘲的な笑みを浮かべる。本当に可笑しくて可笑しくて堪らないとというようなのに、最後の方はもう泣いているみたいだ。
止まらない笑い無理やり収めるようにをはあ、と大きな溜息の後、

「………わるい、今、お前に構う余裕がない……。
今、オレちょっと可笑しいんだ、
出て行ってくれ。」

本当にどうした、本当に如何しちゃったの。
まるで、ここから居なくなって終うんじゃないかと、冗談じゃない錯角に、恐る恐る、右手を伸ばす。
その指先が膝を抱いている腕に触れるか触れないかの時、

「……!!!触るな……!!!」

バチンと払いのけられて力に従い私の腕は宙を舞う。
自分の元に戻ってきた腕を呆然と見る。甲がジンジン痛んで少し赤くなってるから、


これは 現実。




「ユイ!!!」

後ろで名前を呼ぶ声が聞こえるけど、そんなのどうでもいい!!

だって、早く早く早く早く!!ここから出て行かなくちゃ!!
そうしないと、バレる、これ以上……!!そんなのは嫌だ!!


ノブに飛びつくように伸ばした手が届くことはなかった。決死に動かしていた足が固定されて、勢いで前かがみにびたんと転ぶ。強かに胸を打ち、息のを整える間もなく、背中から温かく大きなものに覆われた。そのまま圧し掛かり、体重を掛けられる。重い。

無我夢中でもがくが一向に体は固定されて動かず、背中越しに伝わる熱と頬当たる熱い息使いが私の如何にか逃げようとする動きをさらに激しくさせた。


「ごめん、悪かった………許してくれ……」

そんなんじゃないそんなんじゃない謝って欲しいわけじゃない。
取り敢えず、私を話して欲しい。

ディーノさんの腕が固く、私を閉じ込めるのに対して、逃げだしたいと思う反面、久方ぶりの熱と匂いに、すごく安らぎを感じる。欲しかったのは、これだったのに。私には願うことさえしてはいけなかった。



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