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「ハハッ、ユイは鋭いな!
緊急なんだよ…何も聞かずに頼む、な!」

否定はされなかった。しかし、合掌をして、頭を下げられては私もそれに従うしかない。

「ま……いいんですけどね!
ただし、一回分の使用量はきちんと守って下さいよ!
本当はこういった物は使わない方が一番いいんです!癖に成りますから!
だからなるべく……」

あ、調子に乗り過ぎた。慌て言葉を切る。べらべら喋って…よい気持ちがする分けない。

「あ………いや…ユイが話す様になったと聞いてたが、本当に良かったな!!


今まで遠慮してたみたいだが……本来のユイは………。ボスも喜ぶ…」

生温とい目で虚を突かれた。まるで、娘を見守る親の目だ、と言ったら自惚れ過ぎだろうか。
それに背中押されて、口から出た言葉は本当は言うつもりは全くなかったのだけれども。

「……ディーノさんは、


元気ですか。




「……………なら、会うか?」

は?

体がビクリと揺れる。
ほ、本当に……?

どんなに望んでも手に入らなかった物が、今するすると自分の目の前に落ちて来た。
私は唯の一度も自分から会いたいと口にした事はない。どんなに思っても、誰が、誰が…仕事で多忙だと言われている人にそれを伝えられる………?
嬉しさと、自分の臆病さに対する悔しさ……いや、絶対泣くもんか。ロマーリオさんを困らせる。
私、どんだけあの人の事が好きなんだよ。最初は面倒臭いとか、ウザいとか、ボロクソに思っていた癖に。

目を見開いて見上げたロマーリオさんの悲しそうな表情は、私に向けられた物だったのだろうか、だったら今の私は相当酷かったに違いない。

でも、繕う事は全く出来なかった。
唯まだ少し濡れている床を睨んで体の震えを押さえながら、大きく頷くので精一杯だったから。






それから、私はロマーリオさんにこの屋敷の奥の奥、つまりは最上階にあたる部屋の前に連れてこられた。
私はこんな所までは中まで入り込んだことは一度もない。そもそも用事がないし、私には入ってはいけない空気がそこには有ったから。ここの一員として居座っている癖に、私はいろんなことに無知すぎる。知ろうともしなかったから、私はまだお客さん扱いなのか。おじ様達は私には良くしてくれるけど、時々意味が分からない話をしているし、まだ打ち解けていない壁というものが存在するように思う。今では、如何してなのか理由は分かっている。
最上階は、他の階の廊下とは何ら変わりはなかったけれども、出会う重そうな扉の数が極端に少なく、部屋数が少ないことが窺える。その代り、その部屋一つが莫大な広さを持つのだろう。窓からのぞく景色はやはり普段見ているものとは大分高く、悠然と広がる庭のその向こうに、私がいつも散歩している町並みや公園が見える。ここの高さから、この景色を描いたらどんなに素敵な物になるだろうかと一端のことをふと考えてしまった。

ロマーリオさんは何もしゃべらなかった。唯黙々と義務のように。唯機械的に。
ただ、私はその高い背中を見ながら付いて行くしかない。その静かさが、私の不安を誘う。
まさか、ディーノさんに何かあったんじゃないか。仕事だ仕事だと聞かされていたが、本当にそうなのだろうか。だって、前はあんなに会いに来てくれていたのに。だって、貴方の今いる場所は、決して命が保障されている場所ではないんでしょう?

歩みが止まったので、用がある部屋はここだと判断する。

「………ボスを、どうか頼む。」

そのこれまで見たこともないようなどでかい扉に目を奪われたまま、ロマーリオさんは声を絞り出すように言う。その声は、とても切実で何かを悔いているように私は感じた。
私の答えを待たずに、ゆっくりとその場を去って行ってしまう。私の不安な気持はより大きな物へと変わった。

何にせよ、此処を開いてしまえば分かること。
期待と不安、その両方を抱えながらゆっくり、ゆっくり、私には重すぎるそれを、歯を喰いしばって押しあけたのであった。



中は、真っ暗だった。何も見えないので恐る恐る、一歩一歩を確かめながら中へ入る。
後ろが重く閉ざされると、本当の闇が私を襲った。
窓は必ず有る物だと思うから、カーテンが光が漏れてこれないほどキッチリと閉められているのだろう、今は清々しい朝で、爽やかな風が気持ち良いというのに、ここは何て暗く、陰鬱とした籠った場所だろうか。この部屋の主の神経を疑う。窓ぐらいあければよいのに。

暗闇に目が慣れてくると、目に前には大きなベットが有った。この大きな部屋に添う、大きな大きなそれには、薄くシーツと羽毛布団が敷かれており、先ほどまで誰ががいたのか乱れていて、まだ温かい。

誰も居ないじゃないか、ドキドキしながら部屋を見回していたが、机にもソファーにも人影は見当たらない。期待して損した。

今は丁度外出中なのかもしれない。ロマーリオさんは確かにここだと案内してくれたし、嘘をつくとか、間違えたとかなんて優秀なとロマーリオさんに限って絶対にない。



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