7





声のトーンで私が彼女の機嫌を損ねてしまった事が分かる。


「さあ、次はあなたの番でしょ。」

「…え?」

「散々あなたの我侭に付き合ってあげたわ。無知なアナタにちゃんぁと一から十まで全部教えた。」

私なんて優しいのかしらと悦に入った様子で芝居掛った動きで指を組む。

「でもね、『なんで』『どうして』『どうゆう事』教えて教えて?自分のことばっかり。私はアナタの母親でも何でもないのよ。

アナタの根性に免じて付き合ってあげたけど、もー飽き飽き。

何、私間違った事言ってる?


ぐうの音もでない。彼女は私に私が本当は何者かを問う。普通の子供が追われる立場に有るはずがない、とも言われた。嫌に親切だったのはこのためだったのかと今さらながら、そう思う。
鋭い空気に身の危険を感じるが、私は答える術を持たない。それは私が聞きたいぐらいだ。

「そう…ダンマリなのね……」


景色が急速にぐんと前進、いや私が後退したのか。ダアンと凄まじい音がして、私は後ろの椅子に叩き付けられる。
息が出来ない。

「ああ、めんどくさい。
言うの言わないのどっちなの、ま、言わないなら―――この首……言わなくても分かるわよねぇ!」

状況を理解した所で、は、それこそ冗談ですよねと突然の凶変した彼女に笑い掛ける。だって、今まで雰囲気良く楽しくお喋りしていたじゃないか。人に対する態度か。はははと顔だけは愛想笑いを浮かべながら、落ち着きなく目だけを私の首に伸びる腕とその腕の張本人とを行き来させる。私に目が合うと細くて滑らかで綺麗ねと笑い、首筋を鷲掴む手により一層力が込められた。彼女の行為と自然な笑顔、それが余りにも違い過ぎて、私の表情は凍り付く。
私はやあっと理解する。彼女にとって私の価値など蚊ほども無くて、今までのは彼女のちょっとした気紛れ。彼女の気持ち一つで、今私の生命活動は幕を閉じる。
気管が圧迫されて喉がぐうとなった。
かあっと顔中に血流が集まって、頭がガンガンする。ヤバい……苦しい。頭もぼうっとして来た。眼下に広がるのはルッスーリアさんのサングラスの下の笑み。あの……気付いてます…?この状態だと、話しようもないんですけど…
強靱な腕に無我夢中で爪を立てながら、助けを期待して横に目をやるが、スクアーロさんは興味がないのか全く我関せずだ。
見捨てられた。私を助けてくれる人など、何処にもいない。
私は迂闊過ぎた。自分にとって優しい行為に簡単に信用して、勝手に甘えて、警戒心も持たずこの様。全くもう、笑いしか出て来ない。
あの時学んだはずじゃなかったか、他人は平気で人を傷付けるって。どうしてこんな事になっているのか。今日は本当に厄日だ。厄日とかって自業自得を他の性にしているこんな役立たずじゃあ嫌いにもなるよね、

遠くでごめんなさい殺しちゃうかもと物騒な言葉が飛んでいたが、苦しくてそれ所ではない。もがく手は空を掻く。多分私に聞かせるための言葉ではないのだろう。
……もう限界、霞む意識。

「………オレは別にどうなろうと知ったこっちゃぁねぇが、いいのかぁ?

このガキは…キャバッローネのところの―――」






その名前にすら、
守られていたなんて。

















ぴんと張詰めた、静かな空気。
寒い。

きいいんと耳を塞ぎたくなる金属が擦り合う音は、裏口の古い扉を無理矢理誰かが開けた音。ここは特に老朽化しており、限られた人にしか使用されない。

はっと息を飲む音が聞こえた。
私の目に映ったのはアレクさんの驚いた顔で。
良かった、他の人に見つかったらどうしようかと思った。もう、面倒事はごめんだ。
いきなり朝日が入り込んで目に染みる。眩しい。


「………貴女、此所で何してるんですか。」


珍しい。声が震えてる。

「………今まで、何処に行ってたんですか、何してたんですか、何で帰って来なかったんですか!!!」


怒ってる。尋常じゃないくらい怒ってる。いつもの平静さはどうしたの。

振り上がる手に殴られると反射的に目をつぶると、私は彼に覆い被さる様に私を包んで、温かい。

この馬鹿が…


ごめんなさい、と呟いても一向に腕は解いては貰えなかった。


なんだよ………喋ったの、少しはびっくりしてくれると思ったのに。


はは、もう、待っててくれる人がいるってすごいな。

凄く有り難いと改めて思った。






[ 53/114 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -