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「あの……待って下さい、
術とか言ってますけど…それは催眠術とか……そうゆう類の……」

実際、あの異常な現象は思い込みとかそうゆう物を利用したものだと勝手に解釈していた。テレビとかでそうゆう特集番組を見た事があるし、人間は目が映す物と脳が認識している物とは違うって聞いた事が有ったから。その事を戸惑いながらも話すと、ルッスーリアさんはちょっと違うわねぇと顎に手を添え、考えるポーズを取る。
スクアーロさんは顔を歪めながらチッと舌打ちをしてソファから体を起こす。どかりと座り直した彼に少し体がびくついた。びっくりしたあ。


「あ゛ーーーーーめんどくせぇ!!
ぬくぬく平和に過ごしてたクソガキには分からねぇ事が、世の中にはたぁくさんあるんだよ!!!」

分かったかぁ!と勢い良く指を指されて凄まれた。そんなぁ……殺生な……。
まあまあとルッスーリアさんが執り成してくれる。

「わたし達の世界では、力こそが全て。

殺すか殺されるか、
それがわたし達なの。
あなただって見たんでしょう、スクアーロのあ、れ。



ウインク付きで指をちっちっと振る。今度は私が一気に加速して行く話にただあんぐりと口を半開きにして聞いている事しかできなかった。彼女が言うには、ルッスーリアさんとスクアーロさんは何処ぞのマフィア直属の暗殺部隊に属していて、殺人を生業に生活しているらしい。ここは彼らの数ある内のアジトの一つで、一応イタリアに私はいる。
からかっているんですか、と言いたかったが、今日の出来事を経て納得してしまう自分がいる。人を殺している所を実際見ちゃった訳だし。なんかもう、目の当たりにして来た事を自分の中の安全常識を守るために否定をする、その気力さえ無い。
だけど、それが真実だと信用したとして、スクアーロさんが剣を振り回しているのを見た時点で正常ではない事は予測は付いていたけど、マフィアという人種が目の前で悠々とお茶してるなんて……。私の知りたかった事を予想打にしなかった事実として間髪を入れずに聞かされて、私にどうしろと。
イタリアと言ったらマフィアは有名だけど。あんなに銃打っ放したり、あんなに人を殺して、変な技まで使ったりして。ずうっとイタリアに住んでいたけれど、日常はいつも平和で一度もそんなアブノーマルな事に出会った事はなかった――今日までは。ここ、ではその異常が普通なのだろうか。そんなことを考えて、ふと気が付く。気付いたらイタリアに瞬間移動してました、とか私だってとてもじゃないが正気ではない。

「わたし達が人殺しだって聞いて怖じ気づいちゃたかしら」


何も喋らない私に馬鹿にした様な笑いを口元に含ませたルッスーリアさん。組んだ足の上に肘を立て、それに顎をだるそうに乗せて私を見据える。
………大丈夫。うん、大丈夫。勿論、殺人なんて人として狂っているとは思うし、あの時だって怖くて仕方が無くて、あの人達も、勿論スクアーロさんも。でも、この人達を手のひらを返した様に人殺しと罵るほど………私は最悪な人間では無いはずだ。

「どうなのよ?」

「わ、私、は、」「―わたし、は?」

だけどその問いに適切な答えが見つからない。全然平気ですよ、なんて言葉は白々しい気がするし、今は一回りも二回りも私よりも大人で有ろう彼女には好意さえ感じているが、彼女の職業で自分の身内が狙われでもしたらそうは言ってられないと思う。たちまち私の中のこの人達は激しい憎悪で黒く塗り潰されることになるだろう。所詮私も都合の良い人間。その証拠に目の前で殺されたあの人達に同情心は全く生まれない。むしろスクアーロさんの行為に清々している自分があり、恐怖にぶるりと体が震えた。私はいつから人の死を願う様な人間になった……?

「……まあ、いいわ。
ちょっと苛めすぎちゃったみたいねぇ、
私はあなたに説教出来るほど人間出来ちゃいないし

あなたにどう思われようが、それこそ、どうでもいい




冷め切った言葉に突き放された気持ちになる。何を思い上がって居たんだろう、彼女達のアイデンティティーは私がどうこうしたとして揺らぐ様な弱い代物では無いのだ。
部屋に控えていたメイドさんが静かに冷めたティーポットを新しい物に換え、手慣れた手付きで私とルッスーリアさんのカップを温かいそれで満す。スクアーロさんは先程から紅茶には全く手を付けておらず、またソファに寝直してしまった。静かに目を閉じてはいるが、気配から寝てはいない事は分かる。


棚に飾られたアンティーク時計のコチコチと時を刻む音が耳に届く。現時刻を確認するが、短針はもう真上辺りを指していた。

もう、いい加減私を家に帰りたい。そして今すぐいつものベッドに潜り込んでグッスリ眠りたい。今日と言う日がいつになったら終わりを告げるのか。







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