3





私が浴室の扉を開けた時には、あのメイドさんは忽然と姿を消していた。

取り敢えず裸で水浸しのまま、周りを見渡しながらペタペタと脱衣所を歩く。豪華な装飾の施されたおっきな鏡の前に真っ白いバスタオルが置いてあったので、勝手に使わせて貰おう。風邪をひいてしまうし。バスタオルで白い湯気が立つ体と髪の水分を念入りに拭きそれを体に巻付けてから、髪は邪魔なので腕のゴムでアップに上げる。

あの人何処にいったんだよ………また放置ですか……

あの私を容赦無く文字通り洗い上げやがった後、あらかじめ熱いお湯が張ってあった浴槽に放心状態の私を放り込んでから、さっさとバスルームから出ていった。湯加減も丁度良く乳白色で良い匂いがして、極楽気分で不覚にも長湯をしてしまった。………しょうがないでしょ、私だって日本人なんだから。

バスタオルでは心もと無いので、都合よく着替えも有っちゃったりしないかなぁと思うが、めぼしい物はない。引き出し等は勝手に開けてはいけないと思うし……。

服と言えば私のあのドロドロの服!!散々私が暴れたせいでこの脱衣所に散乱していたはずのブラウス、スカート…下着類が見当たらない。あのメイドさんが持っていったのか……居なくなってるし。

冷静になって考えてみれば、やり方は荒っぽかったけどお風呂まで貸してくれて。自分がどうなってしまうんだとか、知らない場所に対する危機感とかはすっぽり抜け落ちている。あのメイドさんの行動も誰かこの家の人の命令みたいだったし、私にとってここは危ない場所ではない事は分かった。

スライド式のドア越しに部屋の方からガチャリという音がして、誰かが入ってきた事が分かる。あのメイドさんが帰ってきたのだろうか。コツコツ靴が地を蹴る音も聞こえる。
なんの気も無しにそのまま、ドアを横に引いてあの豪華な部屋にまた足を踏み入れる。

そこにいたのは私が期待していたエプロンドレスの彼女の姿ではなかった。
というか、女の人でもなかった。



「んもう、スクアーロいるんだったら返事ぐらいしなさいよぉ………



第一印象。奇抜だ…奇抜すぎる……まず目がいったのは顔を覆う大きなサングラス。頭が坊主で……トサカが生えてる……。あの………サーカスか何かの奇術師の方ですかって感じだ。行きなり夢の国ワンダーランド?
着ているのは何処かで見覚えのあるあの黒塗りのコート。
出て来た私が目当ての人物でないと分かったらしく、あらぁ?と黒い手袋で覆われている右手を口下に添えて大袈裟に驚いて見せた。いや……私の方があなたにびっくりなんですけれども。


「あらまあ…」

彼の視線は私に釘付けで、凄く居心地が悪い。私今私の全身を舐めるようにジックリと見つめてから、また、あらあらあらあらと驚いたように声を上げた。てか、今私タオル一枚だよ!!発せられる声はのぶといので男性のはずなのだが、仕草が凄く女っぽい。これが俗に言う………オカーぁ…ってやつだろうか。


「可愛い可愛いおじょうさん、
あなたスクアーロがどこにいるか知らないかしらあ〜?」

どうしていいか分からず突っ立っているばかりの私に色っぽく流し目を使いながら問うた彼。
何処ぞの誰かは知らないが私の返答を待つ態度に怖々口を開く。だから、何回も聞きたかったのだけども……

「あの…すみません今さらな様な事を聞きますが………」

その人誰なんですか、と続くはずの言葉は出る事はなかった。あら、スクアーロと言うオカ…さんの呟きに気を取られてしまったからだ。




その人は、私がずっと探していた……あの銀髪のその人だった。






[ 49/114 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -