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後頭部の耐えがたい鈍痛に瞼が自然と開いた。顔を顰めながら異常に気付いたのは、後頭部に添えようとした右腕が一向に上がらなかったからだ。その代わりに二の腕辺りが締め付けられて、動かそうとすると酷く擦れて、ひりひりする。他の四肢も同様だった。動かない。ぴくりとも。
重い瞼を凝らして、全身を眼だけで確認すると、驚くべき私の状態が確認できた。腕が、足が、胴体が、それぞれ椅子にロープの様な物で括り付けられている。ぎし、ぎし、と身を捩って抗おうとした。しかし、努力もむなしく拘束部がひりひり痛むだけだった。体力が削られて、段々力が無くなって来る。意識がぼーとして頭がよく働かない。


コツコツ。コツコツ。
暗闇から、一定のリズムの足音。
ぼやけた思考でふと目線を上にあげると、じっと私を見下す一対の瞳が有った。鼻下に髭を蓄えた中年の男。男は険しい形相で此方をじっと睨んでいた。

「お前、日本人か。」

ぴしり、と放たれた一言に体が大きく跳ね上がった。頭が痛い。吐き気がする。
どういう状況、なんだ、ろう、これは。何が間違って私が全身の自由を奪われて?
私は如何したんだろう、そういえば、さっき居た部屋とも違う。一時前までは確か、大きく清潔で綺麗な部屋ではなかったか。対してここは暗くて冷たい。この目の前の男以外の気配もしない。さっきは間違ってもこんな暗い牢獄のような所ではなかった。

「どこから入り込んだ。何が目的だ。」

「………っ」

は、なに、目的…?何のことかさっぱりわからない。気づいたらあの場所にいた。私にも何が何だかわからないというのに。それより、これをはやく、ほどいて………。

「なんだ、苦しいか。失血も起こしているようだし、自分が大事なら早急に吐くんだな
さあ、何処の差し金だ?」

「………っ!!」

何か、貴方は勘違いをしている!!誤解してるんだ、私は、あなたに何かしようとか、まず貴方の事なんて知らない!と弁解をしようとした、しかし掠れた息が口をついて出るだけで音にならない。何も言えない、口をパクパクさせただけだった。男の顔が更に険しくなって私は青ざめた。

「答えろ、従えば命だけは助けてやる」

銃を頭にゴリゴリと押し付けられ、殴れた場所の痛みがぶり返す。

「!!!」

殺される。わたし、ころされる。
体がガタガタ震えだし、かみ合わない歯がカチカチと音をたてた。

「白々しい演技など今更する必要はないぞ。
幼い見目に騙されてやるほど俺はそんなに甘くない。穏健派の奴らなら結果は変わっていたかも知れんがなあ、あれは女子供に甘い…………でも、キャバッローネがなまちょろいヤツばかりだと思われては困る。
さあ、吐け。お前は、何を命令された。この厳重なセキュリティーを掻い潜って、何を企んでいる?さしずめ、情報かそれとも………」

男の剣幕に震えながらも弁解しようとするが、出し方を忘れてしまったように声が出ない。

「……暗殺か!!!」

「っぐ………ん………!!」

徐に上げたつま先が私の腹に叩きこまれて、私は息を詰める。
――え、なに、これ。
普通ならあり得ない扱いに頭の中が真っ白になった。かは、と空の肺から空気が漏れて、後から耐えがたい鈍痛が襲ってきて、私は首を前に倒して何か酸っぱい物を膝にぽたぽたと垂らした。私は蹴られた、らしい。
収まらない、吐き気と痛み。休む暇もなく、びしいとほほを叩かれる。
ギラギラした血走った眼光が無情に私を映していた。


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