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行くぞぉと小さく呟かれた瞬間、私を支えながら一気に上空に飛び上がった。
絶叫マシンでしか体感した事のなかった浮遊感に背筋がぞくりとして、体が振う。
視界が明るくなり、私の黒髪が長い銀髪と共にする上に吹き上げられて、今度は落下しているてわかる。下の澱んでいた空気から、新鮮な雰囲気に変わって冷たく刺す風が気持ち良い。




何処かの民家の屋根に着地したみたいだ。視界が高い。
それにしても、空が存外明るい。裏町は夜になってしまった様に暗かったのに……。良く考えるとおかしい、夕方に近くなっているとはいえ…いきなりあんなに暗くなるはずがない、例え光の届きにくい入り組んだ石造りの町中だとしても…………彼が言った、幻術って……?

「ぐ…おまえぇ……締めるな離せぇ!」

頭上から苦しげな声が聞こえて目線だけを上に移動させると、色白の首が私の腕に捻り潰さんばかりにホールドされて、彼は顔を青ざめさせている。

「ご、ごめんなさい…!!」

慌てて腕の力を緩める。

「惚けてるんじゃねぇぞぉ、ガキ
テリトリーを離れたが、ここからが本番だ
せいぜい足を引っ張るな

……しくじりやがったらブッ殺す……」


こ、怖い………私が掴まる前にこの人が私を殺しそう……。
それから馬鹿にするように至近距離で半眼にすがめられて、ドクンと心臓が鳴ったが慌てて目を逸らし、外に向ける。


「近くに一人居ます…後したの物置きの影に銃を持って二三にん……あと…」
「面倒クセェ!!指で指せえぇ、耳元でごちゃごちゃ言うなぁ」

爆音が鋭い音と共に足元を襲った。砂ぼこりが微かにもわっとまって下が少しへこんでた。
これが、銃か!?銃で狙われてるのか、私?!
これに一発でも当ったら私はあの死体の様に………血まみれになって…

それを引き金に雨の様に銃弾が私達を襲う。
当たる…………!!

恐怖に目を堅くつぶったら私に回されていた手に力が入り、ふわっと体が浮いた。
びっくりしてうっすらと目を開くと、見事な体さばきでブーツを翻し、体を反転して踊るように弾丸を避け、間をすり抜ける。それはまるで私を庇う様に。私の身体はそれに従って大きく揺れる。………包まれる腕、硬いコート越しでも温かい…

「目をかっ開け!!
恐怖に眼を背けるなぁ!」

「あの、助けて頂いてありが……」
「黙って返事をしろぉ!!!」

「は、はいぃぃ!!!」

彼が器用に剣で跳んで来る弾丸を弾き防ぎながら飛ばす叱責に、ヤケクソになりながら叫んで返事を返す。まったくどうして今日私はこんな目にあっちゃってるんだろうとぼんやり思う。しかし、多勢にこんな芸当が出来るなんて…しかも私みたいなお荷物がいて…もしかしなくてもこの人相当強いんじゃ…

「そして探せぇ―
オレ達の行動をただ伺ってやがるだけのヤツがいるはずだ

ソイツを叩けば――」

私の指す示す方向に彼はニヤリとしながら凄まじい跳躍力で家家を飛び回り赴いて、切り込みをかけて行く。


「オレ達の勝ちだぜぇ!!!!!!」


勢い良く伸び上がり、ザンと脳天から剣を振り下ろして、また一人、血を撒き散らしながら絶命していった。至近距離になると迷いも見せずに切り裂く彼。この人は私を攻撃を仕掛ける彼等が見えず、その視線は全く彼等から素通りしているみたいだ。けど、無駄のない豪快な攻撃は確実に敵に致命傷を与えている。


「つぎはどいつだ!!!」

「はい!!!」


暫くして、周りの観察に慣れてきた私は彼と見事な連携を見せていた。
上下左右360度から来る攻撃にまで彼に警告を発する。そのせいか随分彼も動き安くなったみたいだ、最初は少し被弾していたのだが、今は絶好調に私を抱えたまま飛び回っている。

嬉しくて堪らないという笑いを顔に乗せながら剣を血に濡らす彼。この人はこの状況を楽しんでいるとわかる。……人を殺しているのに……自分も死ぬかも知れないのに。少年の様にはしゃいで生き生きとしている彼の表情だけが、何ともこの決死の状況に不釣り合いだ。


十数人ほど、倒した所で耳に鼓膜が弾ける様なバチンと音がしたあと、今度こそ今までが何だと思うくらい周りの情景がクリアになった。

そこからは、彼の独壇場で私を放置して手当たり次第一人残らず自分の敵をたたっきっていった。

私は情けない事に、こんな非常事態だと言うのに、まだ終わってはないと言うのに、途中で眠くて…眠くて、仕方がなくなってその場にへたりこむ。瞼が重くなって、もう目を開けていられない、そのまま気を失う様に眠りの世界に引きずり込まれて行く。

辛うじて保とうとした意識の中で、何でか山道の様な樹々の欝蒼と茂る景色をなんとか認めたけど、理由も考える事が出来ず、視界は見事に暗転。




まどろみながら見た夢は

金色に輝く髪をなびかせて、私に照れたように優しく微笑む、
私の大好きなあの人の夢だった





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