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ひとしきり感情のまま泣いていると、後に残るのは怖いくらいの虚無感で。
ぼんやりと頭が働き出して、自分の周りの現状を第三者の様に理解し始める。辺りはもう薄暗く、闇に隠れて余り良く見えない。

もう……帰らなくちゃ…門限破っちゃったな、アレクさん怒ってるだろうなあ

自分の身体を見下ろすと淡い色だったかわいいブラウスとロングスカートがどす黒く染まっていて。

それよりこの格好どうにかしなくちゃとも思う。遅くなって帰って来て、その上全身血みどろだったら本当に何だと思われるだろう、それに……目の前の大量な死体に血を被った人物………

まるで私が殺人者じゃあないか

いや、まるで、じゃあない。男達の口ぶりでは、この出来事の発端は私にあるような言い方をしていた。分からない単語が出て来ていたので意味は余りわからなかったが。
そして確かに私は今、助かって安堵している、この人達が死んで喜んでいるんだ。真意がどうあれ、殺人者であったとしても銀髪の人を責める気には微塵もならない。

そう思い銀髪の人を横目で伺うと、まだばつのわるい顔をして嫌々ながらも私の隣りにいてくれている。

全然悪い人じゃなさそうだし……

私も現金な奴だなあ。


でも、次にはそれどころではなくなっていた。



「っ!!
な、なななんだぁお前…!?
は、離せぇえ……!!!」


慌てて身をよじって抗議を並べた彼。
でも、私も大人しく離す訳にはいかない。振り落とされそうになるが負けじと彼のお腹辺りに回した両方の腕に一層力を入れる。だって……怖い怖い怖い……!!!水気が地肌まで伝わるぐらい染みてきて、気持ちが悪い。ベチョベチョのグチョグチョだ。でもそれさえ気にならない。


「……や…だ、やだ…やだ………こ、殺される……」

「はあ?
お前何言ってやがるんだぁ」

「おねがいしますおねがいしますっ…!
たすけて……来る来る、来てるっ」

「うおぉい!
ガキぃい、とにかく離れろ、気でも触れたかぁ」

何も見ない様に硬いコートに顔を擦りつける。この腕を離すと私はどうなるかわからない、

「とにかく、落ち着けぇ…」「たすけてぇたすけてぇ…」「助けろったってどうしろってんだよぉ……」「わああ、近付いてる……!!」「………」



「ーーーーーゔお゙ぉい、うるせぇぞぉお!!!」


今度こそ完璧に振り放されて、勢い良く水溜まりに尻餅をつく。顔に血飛沫がぴちゃと跳ねて激情がスウッと冷えた。

「貴様の駄々に付き合ってやる暇はねぇ」

呆然と見上げる私を一声で冷たく切り捨て刺すように見下げる。

踵を返すと私に背を向けて歩き出す。
でも、でも、そっちには……


「ま、待って…!!」


懸命に伸ばした手は、はたき落とされ忌々しいとばかりに

「!!!しつけぇんだ……」


振り向くと同時に素早く何かが彼の背後を通ったのを確認する。
改めて、確認すると針の様な物が無数に刺さっている。多分、この人を上空から狙って放たれた物だろう。
良かった………彼には当たなかったみたい…
それにしても、なんでわざわざそっちに向かうんだろう………危ないのは分かるだろうに…
彼の行動に不可解さがのこる。



一瞬惚けた彼だったが苦々しく周りを見渡して

「……幻術かぁ…
このオレが油断した………」

チッと荒荒しく舌打ちを打つと私に掴みかかる。

「まさか、お前が仕組んでやがる訳じゃねぇんだろうなぁ……!!」

「ちが、違います……私…」

「だったらオレに協力しやがれぇ、その様子じゃお前には見えてるらしいからなぁ」

彼には見えないんだろうか、

建物の影から、建物の上から、四方八方から、私達を伺う影の数々が…………!!

「オレには一度かかった暗示を破る能力はねぇ、何時もはこんな小細工掛かっちゃあやらねぇけどな、
仕方ねぇ……お前も連れてってやる


その代わり、お前はオレの変わりに見やがれぇ

ヤツラの位置をオレに知らせろ


そう言いながら、私を腰に手を回し、片手で抱えて立ち上がった。促されるままに恐る恐る銀髪と首筋の間に手を通し掴まる。

「ゔお゙ぉい、一匹も漏らすんじゃねぇぞぉ

一つの甘えが、地獄に落ちる引き金になる


わかったか、クソガキ」




ごくりと唾を飲み込んで巻付けた腕にぎゅううと力を込める。それを返事と受け取ったのか、腕の両歯の剣で空をきって、付着していた血が水滴となり吹き飛ばした。輝きを取り戻して、きーんと透き通った音が響きまるでそれ自身が声を震わせているみたいだ。





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