1


まずった……どうしよう……

私は薄暗い、見知らぬ場所に迷いこんでいた。






朝は何も取り立てて言う必要もない、極普通の朝だった。今日は珍しくアレクさんがちゃんと起きていて、珍しいですねと純粋に驚いたらヤバいと思った時には遅くて大量に処理仕事を任された。部下さんたちは医務室を談話室の様に椅子を適当に取り出しくっちゃべっていたし、マリアさんもいつも通り絶好調だった。

それからいつもの様に広い公園にスケブを持ってのんびり過ごしていた。動かす手を休めてベンチ座り、お腹が空いたのでパンを食んでいると、高齢のおじいさんが永遠と昔話を聞かせて来て、結構困った。


奇妙なことはそれからだった。いつもの町並みを歩んでいると、突然ゾクッと悪寒が背筋を襲った。いつもと何かが違う、漠然とそれだけをただ感じた。それが何かは言い表せないけど、ただ今日は早く切り上げて、早く早く屋敷に戻って食堂で美味しいものを食べて忘れようと思った。
息を切らして気持ちだけがせいで、でも上手く動いてくれない自分の足を忌々しく思いながら、ただただ走る。でもそれによって気付いてしまった。

誰かが付いて来ている。
最初は気のせいだと思い込もうとしたが、少し離れている誰かが、私と一定の距離を放して付いてきている。私が走る出すと同時に走り、私が止まるとピタと止まる。私に気配を読むとか言う芸当は出来ないが、あちらこちらに見え隠れする人影に気付かないほど鈍感ではない。焦る私だけを置いて、人がまばらな町並みは呑気な日常を刻んでいる。
怖い、気持ちが悪い。何、何なの……!?
一刻も早く逃げ出したかっが、もし、私が急に妙な行動を何されるか分からない。後ろを向くのが怖くて、意識は背中の方へ、しかし気付いてないフリをして自然に、自然にと自分に言い聞かせて足を動かしていた。誰か助けをとも思ったが、スケブでは咄嗟に伝わり難いし、気のせいだと判断されて馬鹿にされるかもしれない恐怖が私を止まらせていた。







いつまでも追いかけごっこを続けている訳にはいかなかった。日は傾いてきており、決められた門限まで近いことが分かる。いままで約束は破ったことのなかったので帰るのが遅くなると、みんな、少なくともアレクさんには心配をかけてしまうと思う。なら今私に何の用かは知らないが相手が何もする気がないようならこのまま居候中の屋敷に帰るのも一つの手だ。でも、ただでさえお世話になっている身でまた手を煩わせるのは申し訳ない。自分の事はなるべく自分で処理をしたい。そして、呆れて見放されるのが、怖い。


私はよしと自分に喝を入れて辺りをそれとなく見渡す。
丁度、民家が沢山立ち並ぶ入り組んだ裏通りの小道であった。その家と家の間に猫が通れるような小さな隙間がある。私みたいな子供なら難無く通り抜けられそうで、向こうまで続いている。

私は体をそこに滑り込ませた。
無我夢中で通り抜け、めちゃめちゃに薄暗い、ジメジメした場所まで逃げる。
もう、相手は追って来られないだろう、息を整えながら取り敢えず安堵する。

でも、ここ………何処…?






しばらくはどうにかして知っている道にでないかと、彷徨っていた。でも、余計に入り組んだ所に迷い込んで、心細さに涙が出そうだ。まばらに人には出くわすが、みんなみすぼらしい服を着て、すごく痩せていた。膝を抱えて座り込んでいて、目に光がなくにごっている。とても気軽に声をかけられる雰囲気ではなかった。

こんな所初めて来た。余りも寂れた様子におどろく。イタリアにはきらびやかなイメージしかなかったから。

と、私から続く道のその先に颯爽と歩く人影が見えた。
やっと普通の人に会えた!!
嬉嬉としてその影に走り寄ろうと駆け出す。

が、その瞬間、後ろから口を塞がれ、全身を強く拘束されてしまった。


―んぐっ


「ヘヘッ、つかまーえた」


耳元で荒い息の音。生暖かくて気持ちが悪い。目の前には嫌な笑いを浮かべる中年の男達。私はどうやら数人の黒ずくめの男たちに捕まってしまったようだ。

「このクソガキ、ガキだと舐めてたらちょこまかと……手間取らせやがって……」

私の顎を掬い上げ、舐める様に見つめる一人の視線に体がすくみ上がった。

「ハッ、それはおまえが悪いんだろ
ガキの一人誘拐なんて易い仕事楽勝だって調子付いてたのはおまえだろーが」

「テメーに言われたかねーんだよ
何もしてない奴が口はさむな!!」


「こんな時にやめろよ鬱陶しい
今はこのガキが俺たちの手の中にある、それでいいじゃねーか」



反射敵に身を捩り、見開いた目に映ったのは、私が決して敵わないであろう大人数の男性の姿。
不躾な視線と、蘇る思い出すのも嫌な恐怖の記憶がよみがえり、ピンに穿たれた非力な節足動物に成下がった。体の動かす術を失ってしまった。


[ 41/114 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -